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Chap.3 お見合い相手の田中さん 2
⑫
しおりを挟む「とりあえず、『ななみん』は二月生まれということなので、誕生石のアメシストのものをご用意したわ。ちょうど今、お品も揃っているの」
そう言って、久城さんがベルベットのジュエリーホルダーにネックレスを並べていった。
目の前に置かれたネックレスはどれも、華奢なフォルムに品質の良さそうな宝石がキラリと輝く、優美なデザインだった。まさに、このJubileeというブランドのコンセプト「普段使いできる上質なジュエリー」を表現していた。
通勤から休日のお出かけまで気軽に使える優れモノでありながら、ちょっと気の張ったフレンチレストランやお寿司屋さんにも堂々とつけていける品質の高さだ。それでいて、海外のブランドよりもリーズナブルなのである。
また、テレビのニュース番組に出演する女性キャスターたちにも貸し出されているため、知的で洗練された雰囲気もある。
——っていうか、ハッキリ言って、Jubileeを身につけていると「賢そうなデキる女」に見えるのだっ。
というわけで、あたしたちの年代にとても人気がある。
「諒志はネックレスがいいって言うんだけどね。ななみんはピアスしてるわよね?……ピアスもあるわよ?」
へぇ、諒くんはネックレスをプレゼントしてくれるつもりだったんだ。確かに、指輪よりも受け取りやすいかも。
「あ、ネックレスの方がいいです。ピアスだと落としちゃうかもしれないから」
そそっかしいから、よく片一方だけ落として結局使えなくしてしまうのだ。
「ふうん、よかったわね、諒志。『ななみん』に『首輪』を受け取ってもらえそうで」
久城さんが諒くんを見て、ふふん、と笑った。
諒くんは久城さんを鋭く睨んだ。
——だけど「紫水晶」っていうのがなぁ……
確かに誕生石なんだけど、この淡い透き通るオトナっぽい紫色が、どうもあたしには似合わないのだ。
なので、アメシストのアクセサリーは一つも持っていない。
「順番につけていきましょうか?」
久城さんに促されて、まず一つめをつける。
——あれ?似合わないはず、だったんだけど……
腑に落ちない顔になってしまったあたしに、
「あら……お気に召さなかったかしら?」
と、久城さんの顔が曇る。
「いえっ、違うんですっ」
あたしはあわてて首を振った。
「今までは、アメシストみたいなオトナっぽいジュエリー、似合わなかったんです。なのに……」
「あぁ……それは、きっと、年齢が追いついたからでしょうね」
久城さんが、さもありなん、というふうに言う。
「だって、ななみんは童顔だけど、もうそろそろアラサーでしょ?例えば、翡翠とか珊瑚なんかはわたしたちくらいの年代にはまだまだ似合わないけれど、母親の年齢くらいの人たちには顔立ちなんて関係なく、しっくりと馴染むものなのよ」
そして、次々とつけていく中で「……あっ」と思ったネックレスがあった。
真ん中に配置された〇・三カラットほどのアメシストの周囲をメレダイヤがぐるっと取り巻いている、ヘイローというデザインだ。チェーンと土台にはホワイトゴールドが使われていた。
「……ななみん、すっげぇ似合ってる」
それまで黙って見ていた諒くんが口を開いた。
「実はね、シンプルに見えてかなり精巧なデザインなの。だからこそ、いろんなシーンにつけられるし、流行り廃りもないのよ」
久城さんにとっても「自信作」なのだろう。
でも……アメシストだけじゃなく、メレダイヤまであるネックレスなので、ほかのものと較べてずいぶんお値段が張るのだ。
躊躇するあたしを尻目に……
「久城、これにする」
諒くんがいつの間にか取り出していたクレジットカードを渡す。
「えっ、えっ……諒くん、ちょっとっ!」
あたしはあわてて制止する。
「ななみんは気に入ってないのか?」
諒くんがあたしの顔を覗き込む。
「気に入ってるっ!えっ、えっ、だけど……こんな高価なもの……」
——あたしたち、出逢って、まだ二度めだよ?
「じゃあ、決まりだ」
諒くんはきっぱりと宣言した。
「田中さま、お買い上げありがとうございます」
久城さんが最高に美しい笑顔でクレカを受け取った。
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