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Chap.3 お見合い相手の田中さん 2

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——あの青山と、おんなじリアクションじゃん。

   あたしは呆気にとられてしまった。

   ちょっとヤツの「初恋のひと」に言いたい!
   こういうクールで余裕ぶっかましてるひとに、「名前の一部」プラス「くん」呼びって……

——すっげぇ半端ない威力なんですけどっ⁉︎


「……それは、なかなかの……呼び方だな……」

   すぐに元の田中さんに戻ったが……それでも、こころなしか、まだ耳だけは赤い。

「い、いきなり、ごめんなさいっ!調子に乗りすぎましたっ!この前、呑みに行った同期の人が、昔そう呼ばれてたみたいで、ふざけて呼んでたんですっ!」

  我に返ったわたしは叫んだ。

「もっと真面目に考えますっ!!」

   歳上の、しかも三〇過ぎた人に対して失礼極まりない。
   母親から言われた『諒志さんに失礼のないようにね』という言葉が耳にこだまする。

——また、やってしまった。


「……『この前、呑みに行った同期』を『ふざけて呼んでた』?」

   気のせいか、彼の眉間にシワが寄ったような……?

「それは……男性社員だよね?」

   気のせいか、彼の眼差しが鋭くない?

「そ、そうですけど……あ、でも、女子もいましたんで」

   ほとんどテーブルに突っ伏して寝てたけど。

——あれ?なんで、こんな言い訳しなきゃなんないの?

「いや……いい。それで」

——はい?

「だれにも呼ばれたことない呼び名だから新鮮だ。これからは、おれのことをそう呼んでくれ」

——ええっ、あたしっ、田中さんのことを「諒くん」って呼ぶの!?


「それで、おれはきみのことを、なんて呼べばいい?」

——え、えーっと……

「友達とかからはなんて呼ばれてるの?」

「な…ななみん」

   すると、田中さん——もとい「諒くん」が破顔した。

「OK、じゃあ、おれもそう呼ぶことにする。……『ななみん』」

   なぜか全身に火を放たれたように、カッ、と熱くなった。

——なんでだろう?友達たちからいつもあたりまえのように呼ばれて、慣れているはずなのに……


   それから、諒くんが(やっぱいい歳の男の人をこんなふうに呼ぶのはこっ恥ずかしいなぁ)車から降りる前に、スマホで映画のチケットを取ってくれた。

「上映時間までまだ時間あるから、昼メシでも食うか?なにか食べたいもの、ある?」

   なんでもいいです、と言いかけたが……

——ここってア◯アシティだったよね?ほんとはダ◯バーシティに入ってる店の方が好きなんだけど……ま、いいか。

「今、すっごく食べたいものがありますっ!」


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


「……ななみんの『すっごく食べたいもの』って、ここ?」

   諒くんが目の前の巨大な赤い看板を、呆然と見ながら、ぽつりとつぶやいた。

「そうですっ!」
   あたしは全身全霊で肯いた。

「こういうとこあるの知ってはいたけど、おれ、初めて来た」

「ええっ⁉︎ うそっ⁉︎ ほんとっ!? 絶対に、今まで損してるっ!」
   あたしは全身全霊で叫んだ。

   あたしたちは今、ア◯アシティ五階にある「ラーメン国◯館」に来ていた。

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