お見合いだけど、恋することからはじめよう

佐倉 蘭

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Chap.2 同期の青山くん

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「そしたら、そんなおまえでも、色気を感じて抱きたい男がいるはずだ。結婚して幸せになりたいんだったら……そういうヤツとしろ」

——はぁっ!? あんたは預言者か、占い師かっ!?

   あたしは全身全霊の怒りでフリーズを解き、ヤツの方へ振り返った。

「青山っ、そういうあんたこそ……」

   ほんっとに、マジで超ムカつくっ!

——なにか、言い返してやんないとっ!!

「『さとくん』って呼ばれてた初恋の人と、 もしも、また出逢えるようなことがあったら……もう二度と離れるんじゃないわよっ!」

   とっさに売り言葉に買い言葉でそう言ってしまってから、すっごく後悔した。

——なんで、こんなことを口走ってしまったんだろう?

   初恋の人が青山を「さとくん」って呼んでいたかどうかなんて、わからないのに……

   きっとまた、いきなり視線だけで人の息の根を止めるかのような凄まじさで、睨まれるに違いない。

   あの端正な切れ長の目が鋭いナイフとなって、メッタ刺しされるのは、メンタル的にもう耐えられないんですけれども……


   恐る恐る青山の顔を見ると——

   彼は虚を衝かれた顔をしていた。

   そして、そのあと……

   なんと——はにかんだのだ。

   それはまるで、小学生の男の子が好きな女の子とのことをからかわれて照れてしまった、というような表情だった。

   しかし、すぐに元の青山に戻った。

   それでも、こころなしか、まだ耳だけは赤い。

——ちょ、ちょっと、信じられないんですけどぉーっ⁉︎

   社内では「鉄仮面」と呼ばれてますよね?
   同じ部署のオンナに二股かけて、定時後の女子更衣室を阿鼻叫喚の修羅場にされましたよね?
   社外のオンナは言うに及ばず、手当たり次第に喰い散らかしてらっしゃいますよね?

——ほんとに、これが、来るもの拒まずの乱れたオンナ関係で、鬼畜街道まっしぐらの青山 智史?

   そんなヤツに、こんな少年のように純心な顔をさせるなんて……

——その初恋のひとっ!

   あなた、すっげぇ半端ない威力なんですけどっ!!


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   タクシーの後部座席では、友佳が反対側の車窓にもたれて眠っていた。

   明日は休みだし、今夜はこのまま介抱がてら、友佳のアパートにお泊りするか。隣にあるコンビニで必要なものを買うとしよう。

   流れていく車窓の街並みを目で追う。

   ふと、あたし自身の「初恋」が思い出された。

——青山に、触発されたかな?

   中学からは私立の女子校だったから、初恋は小学校のときに同じクラスだった男の子だが、そういう淡いふわっとした想いの方ではなくて……

   がっつりと「この人が好きだ」と自覚した「本格的な初恋」の方をつらつらと思い浮かべていた。

   いわゆる——「初カレ」だ。

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