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Chap.2 同期の青山くん
⑨
しおりを挟む「青山……あんた、今までに、本気で好きになった女っている?」
青山が怪訝な顔であたしを見る。
「別に、ディスって言ってるわけじゃないんだよ?……それに、あんたの、今のめちゃくちゃなオンナ関係のことを非難してるワケじゃないしね」
青山が社内だけじゃなく「外」でも、オンナを喰い倒しているのは周知の事実だ。
——ま、それでも、この男の毒牙にかかりたい、って自ら「身投げ」する女が次から次へと現れるんだけども……
「たとえばさ、初恋の女の子、とか?あんたにも、純心だった頃があったっしょ?」
すると、青山からなぜか即凍死になりそうな冷え切った視線を全身に受けることになった。
——えっ?地雷踏んだ⁉︎
初恋の女の子のことを訊いただけで、そんなに怖い顔されなきゃなんないもの?
——もしかして、その子のことが忘れられなくて、ほかのオンナを喰い散らかしている、とか?
「ねぇ、ねぇ、どしたのよー?」
あたしは突如降って湧いた、緊迫した雰囲気を和らげるために、とっさに思いついたおふざけで、
「『さとくん』ってばさぁー」
と、青山に呼びかけた。彼の名前が「さとふみ」だったからだ。
すると、いきなり視線だけで人の息の根を止めるかのような凄まじさで、青山から睨まれた。
端正な切れ長の目が鋭いナイフとなって、メッタ刺しされてるかのようだ。
なぜなのかは、さっぱりわかんないけれども……完全に地雷を踏み潰してしまったらしい。
——じゅ…寿命が軽く五年は縮むほど、ちょ…超怖いんですけれども……
「そういうおまえはどうなんだ、水野?それこそ、結婚したいほど、惚れてたんじゃないのか?営企のあ……」
「ストーーーップっ!」
あたしはあわてて青山を制した。
——他人の黒歴史を暴くなっ!
焦りまくったあたしは、
「ごめん、ごめんっ。なんだか、ワケわかんないけど、ヘンなこと訊いて悪かった、青山。悪いお酒になんないうちに、さっ、もうお開きにしよっ。……ほら、ともちんっ、もう帰るよっ!アパートまで送るから、とっとと起きなっ」
テーブルに突っ伏して眠りこける友佳を、ゆさゆさと揺すった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
スペインバルを出たあと、青山通りでタクシーを捕まえる。後部座席のドアが開き、先に友佳を放り込む。
「……じゃあ、青山、今日はごちそうさま」
結局、青山がすべて奢ってくれた。
——ま、ヤツは院卒な上に、すでに「主任」だから、あたしたちよりもずっと高給取りだけどね。
「……水野」
乗り込もうとするあたしの背中に、青山の声がかかる。
「気晴らしになるかと思って来てみたけど」
さすがの青山も、同じ部署内での二股には懲りたか?
「たまには、このあとラブホに連れ込む必要のない女と呑んでもおもしろいな」
——あぁ、やっぱ、ムカつくヤツっ!
「おまえ、外見はいかにも『夢見る夢子』って感じなのに、中身は酒が強くてサバサバして言いたい放題だしな。……セックスしたいって気にはならねえな」
——わっ、悪かったわねっ。
オンナであれば手当たり次第に喰い倒すあんたですら、食指が動かない色気のなさでっ!
どうせつき合った男からは、
『全然イメージが違うじゃんよ。こんなふうな子だとは思わなかった』
って幻滅される女だよっ。
——そ、それにっ、あたしだって、あんたとなんかヤりたかないわよっ!!
二月十七日生まれのあたしは、限りなくうお座に近いみずがめ座だ。「マイペースで独創的な理論派」という宿命が、しれっと辛辣な言葉を吐かせてしまうのだ。
「それでも……今度、惚れた男には、外見に合わせて猫をかぶるなんてことはせずに、ちゃんとその中身を見せろよ」
あたしは、一瞬で、フリーズした。
——青山……あんた、どこまで知ってる?
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