お見合いだけど、恋することからはじめよう

佐倉 蘭

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Chap.2 同期の青山くん

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「ちょっと、青山くん、聞いてよぉ。ななみんたらさぁ、この前の日曜日にお見合いしたこと、黙ってたんだよ。ひどくない?」

——ええっ、青山にまで言う気?

「へぇ、見合いしたのは、水野か」
ふん、と青山は興味なさげに言った。

——ま、こいつがあたしのことになんて、興味持つわけないけどさ。

「青山くんこそ、めずらしいじゃん。『同期会』なんかに出てくるの」
   あたしは話題を変えた。

「あたし……知ってんだかんね」

  すっかり酔いのまわった友佳が、テーブルに頬杖をついて青山を見て、ひひひっ、と嗤う。

「今週の月曜日、定時後の女子更衣室でさ。情シスの山下やましたさんと小川おがわちゃんが、どっちもすんごい剣幕で罵り合ってたのって……原因は、青山、あんたでしょ?」

「ええぇっ⁉︎ あの騒ぎの『元凶』って、青山くんだったのっ⁉︎」
   あたしは素っ頓狂な声をあげた。

   山下さんは情報システム部のシステムSエンジニアEで、バツイチの三十代のお局さま——もとい、ベテランのお姉さまである。
   対して、小川ちゃんというのは、情報システム部に事務職で配属された、まだ入社二年目の子である。

   二人の歳の差は一回りもあるというのに、社内でしかもあんな壮絶な言い争いを繰り広げるとは、いったいなにがあったんだろう、と不思議でしようがなかったんだけど……

——そうか、男がらみ、か。しかもその相手は、今、目の前にいる青山なんだ。

「……って、青山っ、あんた、おなじ部署内のオンナ二人に手をだしたのっ⁉︎」

   あたしは青山の胸ぐらを掴みかからんばかりの勢いで訊いた。「くん」なんて吹っ飛んだ。

——オンナに見境のないヤツだとは知っていたけれどもっ!まさか……ここまでの鬼畜野郎だったとはっ!!

   そのとき、青山がオーダーした生ビールがやってきた。先程の女の子の店員さんが「お待たせしました」とコースターを敷いてからビアグラスをテーブルに置く。

   青山が「ありがとう」と、あの哀れな二人をたぶらかした(と思われる)落ち着いた低い声で応えた。とたんに、店員さんの頬が真っ赤に染まる。

——気をつけなよ?こいつは、おなじ部署内のオンナを二股する、鬼畜野郎だよっ。

「……心配しなくても、おまえら同期には手は出さねえよ」

   淡々とそう言って、青山は細長い指でハーフリムの眼鏡を外しながら息を吐いた。

   姿をあらわした端正な切れ長の目で、鋭く私たちを一瞥すると、筋張った大きな手でグラスを持ち上げ、ビールを呑んだ。

   喉仏が上下に大きく動く。

——こーんなに無口で気が利かないヤツなのに、こういうところが、妙に色っぽいんだよなぁ。

   ほら、あんなにせせらわらいしていた友佳までもが、とろんとした目で見てるじゃん。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


「おつまみ、食べなよ。お酒ばっかじゃ、身体からだに悪いよ?」

   あたしは、お通しのピンチョスを軽くつまんだだけであとは酒ばかり呑む青山に、アヒージョやトルティーヤを勧めた。
   友佳はいつの間にかすっかり潰れてしまって、テーブルに突っ伏したままだ。

   だが、青山は首を振って、
「こんな夜遅くに、こんな高カロリー考えられないし、他人の直箸で突かれたものは食えない」
と拒否して、何杯目かのビールを呑み干す。

   そして、すぐさま店員さんを呼んで、今度はあたしと同じモヒートを頼んだ。

——潔癖症のダイエット中の女子かっ!?

   他人ひとが親切心で言ったげてるってのに、ムカつくヤツだ。

「あんた、そんなに神経質なのに、よくいろんなオンナを抱けるね?」

——言ってやったぜ。

   あたしは、ふふん、とわらってモヒートを呑んだ。

「キスはしないからな」

——はぁ!?

   危うく、モヒートを噴き出しそうになる。

   たとえ、どんなにイケメンで背が高くてハイスペックであったとしても……

——あたしは、こんな男、絶対にイヤだ。

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