お見合いだけど、恋することからはじめよう

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
21 / 102
Chap.2 同期の青山くん

しおりを挟む

「ちょっと、青山くん、聞いてよぉ。ななみんたらさぁ、この前の日曜日にお見合いしたこと、黙ってたんだよ。ひどくない?」

——ええっ、青山にまで言う気?

「へぇ、見合いしたのは、水野か」
ふん、と青山は興味なさげに言った。

——ま、こいつがあたしのことになんて、興味持つわけないけどさ。

「青山くんこそ、めずらしいじゃん。『同期会』なんかに出てくるの」
   あたしは話題を変えた。

「あたし……知ってんだかんね」

  すっかり酔いのまわった友佳が、テーブルに頬杖をついて青山を見て、ひひひっ、と嗤う。

「今週の月曜日、定時後の女子更衣室でさ。情シスの山下やましたさんと小川おがわちゃんが、どっちもすんごい剣幕で罵り合ってたのって……原因は、青山、あんたでしょ?」

「ええぇっ⁉︎ あの騒ぎの『元凶』って、青山くんだったのっ⁉︎」
   あたしは素っ頓狂な声をあげた。

   山下さんは情報システム部のシステムSエンジニアEで、バツイチの三十代のお局さま——もとい、ベテランのお姉さまである。
   対して、小川ちゃんというのは、情報システム部に事務職で配属された、まだ入社二年目の子である。

   二人の歳の差は一回りもあるというのに、社内でしかもあんな壮絶な言い争いを繰り広げるとは、いったいなにがあったんだろう、と不思議でしようがなかったんだけど……

——そうか、男がらみ、か。しかもその相手は、今、目の前にいる青山なんだ。

「……って、青山っ、あんた、おなじ部署内のオンナ二人に手をだしたのっ⁉︎」

   あたしは青山の胸ぐらを掴みかからんばかりの勢いで訊いた。「くん」なんて吹っ飛んだ。

——オンナに見境のないヤツだとは知っていたけれどもっ!まさか……ここまでの鬼畜野郎だったとはっ!!

   そのとき、青山がオーダーした生ビールがやってきた。先程の女の子の店員さんが「お待たせしました」とコースターを敷いてからビアグラスをテーブルに置く。

   青山が「ありがとう」と、あの哀れな二人をたぶらかした(と思われる)落ち着いた低い声で応えた。とたんに、店員さんの頬が真っ赤に染まる。

——気をつけなよ?こいつは、おなじ部署内のオンナを二股する、鬼畜野郎だよっ。

「……心配しなくても、おまえら同期には手は出さねえよ」

   淡々とそう言って、青山は細長い指でハーフリムの眼鏡を外しながら息を吐いた。

   姿をあらわした端正な切れ長の目で、鋭く私たちを一瞥すると、筋張った大きな手でグラスを持ち上げ、ビールを呑んだ。

   喉仏が上下に大きく動く。

——こーんなに無口で気が利かないヤツなのに、こういうところが、妙に色っぽいんだよなぁ。

   ほら、あんなにせせらわらいしていた友佳までもが、とろんとした目で見てるじゃん。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


「おつまみ、食べなよ。お酒ばっかじゃ、身体からだに悪いよ?」

   あたしは、お通しのピンチョスを軽くつまんだだけであとは酒ばかり呑む青山に、アヒージョやトルティーヤを勧めた。
   友佳はいつの間にかすっかり潰れてしまって、テーブルに突っ伏したままだ。

   だが、青山は首を振って、
「こんな夜遅くに、こんな高カロリー考えられないし、他人の直箸で突かれたものは食えない」
と拒否して、何杯目かのビールを呑み干す。

   そして、すぐさま店員さんを呼んで、今度はあたしと同じモヒートを頼んだ。

——潔癖症のダイエット中の女子かっ!?

   他人ひとが親切心で言ったげてるってのに、ムカつくヤツだ。

「あんた、そんなに神経質なのに、よくいろんなオンナを抱けるね?」

——言ってやったぜ。

   あたしは、ふふん、とわらってモヒートを呑んだ。

「キスはしないからな」

——はぁ!?

   危うく、モヒートを噴き出しそうになる。

   たとえ、どんなにイケメンで背が高くてハイスペックであったとしても……

——あたしは、こんな男、絶対にイヤだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

カラダから、はじまる。

佐倉 蘭
現代文学
世の中には、どんなに願っても、どんなに努力しても、絶対に実らない恋がある…… そんなこと、能天気にしあわせに浸っている、あの二人には、一生、わからないだろう…… わたしがこの世で唯一愛した男は——妹の夫になる。 ※「あなたの運命の人に逢わせてあげます」「常務の愛娘の『田中さん』を探せ!」「もう一度、愛してくれないか」「政略結婚はせつない恋の予感⁉︎」「お見合いだけど、恋することからはじめよう」のネタバレを含みます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...