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Chap.2 同期の青山くん
⑤
しおりを挟む「あっ、ななみん、こっち~!」
法務部に所属する白石 友佳が奥のテーブルから手を振る。
「ごめん、待たせたー、ともちん」
あたしは小走り気味に駆け寄り、テーブルの下の籐籠の友佳のバッグの隣に、フ◯ラのピンクベージュのパイパーを入れ、ハイスツールに腰を下ろす。
今日は月イチの「NO残業day」の日。そして、ひさびさの「同期会」の日である。
場所は、南青山にある会社近くのスペインバルだ。
同期、と言っても「TOMITAホールディングス」の方は「TOMITA自動車」と違って新卒採用枠が少ない。本社ではたったの数人だ。
そのうえ、この歳になると転勤で東京から離れる人もいるし、結婚している人はせっかくの早く帰れる日なので「家族サービス」しなきゃなんないし、カレカノのいる人は言わずもがな、である。
「あと、だれが来るの?」
あたしはジャニーズ系のカッコかわいい金髪の店員さんからおしぼりを受け取りながら、友佳に尋ねる。
「それがねぇ……あとは青山くらいなんだよー」
——ふうん、情シスの青山 智史かぁ。めずらしいな。
情報システム部の業務は本社に集約されてるから、彼には転勤はない。その代わり、と言っちゃなんだが、めちゃくちゃ忙しい。NO残業dayだけど、ヤツに限っていうと、いつ来られるかわからない。
「……そんじゃさ、ともちん、もう飲み物頼んじゃおうよ」
あたしたちは早速、生ビールをオーダーした。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「……ちょっと、ななみん、聞いてよぉ」
めずらしく友佳のお酒のピッチが早い。生ビールを一杯呑んだあと、モヒートに移ったのだが、もうほとんどない。
お通しのピンチョスだけでは心許ないので、店員さんを呼んで、海老ときのこのアヒージョをオーダーする。
青山も来そうにないし、ほかにもオーダーしようかな?
——ヤツのことだ。「別件」でも「忙しく」て、今夜はもう来ないかもしれない。
「あんたんとこのボスがうちの部に来るようになってから、絶対零度の世界よぉっ!」
そう言って、友佳は机に突っ伏した。
「ええっ?島村室長が?なんで?」
仕事は神経質なくらいきっちりとしているが、その指示は有無も言わせないほど的確で「イヤだ」とか「やりづらい」とかも思ったことないのに。
友佳はMARCHの一角であるC大の法学部を出て入社して以来、ずっと法務部に在籍している。
ちなみにうちの法務部はC大の学閥だ。島村室長も、そこの法学部から法科大学院へと進んだ。
「それがさ、今までは進藤先生の教えの下、十年一日のごとく『マニュアルどおり』に業務を進めてたんだけどね」
進藤先生、というのは顧問弁護士の名前だ。進藤総合法律事務所という大企業専門の法律事務所の所長である。
「あれっ、うちの社長の親友ということもあって、直接担当してくれてたんじゃないの?」
社長というのは、彩乃さんの婚約者でもある副社長の父親だ。
「うん、顧問弁護士の代表には変わりはないんだけどさ、『実務』の方を進藤先生のお嬢さんが担当することになったのよ」
——へぇ。お嬢さんも弁護士なんだ。
「そのお嬢さん——光彩先生と、島村室長がね。リーガルチェックやコンプライアンスの解釈の違いとかで、とことんやり合うわけよ。それだけならまだしも、十年一日のマニュアルまでチェックしだしちゃってさぁ」
「ふうん、島村室長は今までの『慣例』を踏襲すべきだ、って言うのに、その光彩先生は『改革』すべきだ、って言うわけだ」
あたしはモヒートを一口、含んだ。
「違うのよぉっ!」
友佳はモヒートをぐっ、と煽ってから、グラスをごんっ、とテーブル置いた。ミントの葉っぱが、ふぁさっ、と揺れる。
「二人とも『改革派』なのよっ!しかも、お互いに一歩も引かないのよぉっ!どっちの案を採っても、今までどおりじゃないし、やり合ったまんま、ちっとも決まらないしっ!部内の空気はどんどん冷え切って、今ではシベリアの極寒地よっ!」
一気にそう捲くし立てた友佳は、テーブルに突っ伏した。
「……そんな猛吹雪の中で『抑留』されて『強制労働』している身にもなってよぉっ」
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