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Chap.2 同期の青山くん

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「で、七海はその人とどうするつもり?おつき合いを始めるつもり?それとも、お断りするの?」
   誠子さんから問われる。

「えーっと、とりあえず父の顔もあるので、少しお相手の様子を見てみようと思います」

   実はあのあと、互いの携番とL◯NEなどの連絡先を交換して、今度デートすることになった。

   そのやりとりが、どう見ても合コンで必死に連絡先を聞き出そうとするガッついたヤツらじゃ全然なくて……
   つい先刻さっきまで怒り心頭だったあたしが、自然にスマホを開いてしまうほど、すっごくスムースで……

   やっぱり、田中さんは恋愛偏差値の高い人、なんだと思った。

   そして——

   たぶんあたしと並行して「遊び相手」とも、今までどおりに逢うんだろうな……


「なんだ、ここにいたのか?」

   秘書室の入り口から声がしたので、あたしたち三人が一斉に目を向けると、副社長がいた。

   少し癖のありそうなダークブラウンの髪。 少年っぽさが残った、丸顔気味の輪郭。目尻が上がったアーモンドのような二重の目に、すーっと通った鼻筋。やわらかそうな、ちょっと厚めの唇。色素の薄いカフェ・オ・レ色の大きな瞳……

   加えて、一八五センチは確実にありそうな長身で立つお姿は、そこだけスポットライトが当たったかのように圧倒的な存在感で、光背すら見えそうだ。

——ぎっ、ぎええぇっ!? どっ、動悸・息切れ・めまいがっ!副社長は普段、この部屋には絶対に来ない人なのにっ!

「お急ぎですか?」
   彩乃さんが冷静に対応する。

   当然のことだとは思うが「婚約者」に対してまったく緊張はしていないようだ。

「取引先の社長がお見えになった。島村は今、法務部に行ってるから、彩乃、至急来てくれ」
   そう言って、副社長は戻って行った。

   ほぉーっと、息を吐く。マジで心臓に悪い。

   最近、弁護士資格を持つ島村室長が、社外との契約や社内でのコンプライアンス関連のことで、法務部に行くことが増えている。早晩、秘書室長を辞して法務部長に就任するための布石なのであろう。

   とりあえず、彩乃さんはランチボックスやスープジャーはここに置いといて、すぐに副社長室に戻ってお茶出しするようだ。

「誠子さん、前室をお願いできますか?」

   彩乃さんが副社長の執務室に入っているときに、前室に電話や急ぎのメールが入ることがあるため、だれかが代わりをしなければならない。
   あたしを連れて行けば、まだ慣れない誠子さんにグループ秘書の仕事を全面的に任すことになるので、彼女を連れて行くのだろう。

   誠子さんが「いいわよ」と言ったので、二人はあたしにじゃあね、と手を振り、急いで秘書室を出て副社長室へと向かって行った。


   とりあえず急ぎの仕事はないので、給湯室でみんなのランチボックスを洗う。

   そういえば……

   田中さんはあんなにイケメンで背が高くて、その上めちゃくちゃに頭が良い人だというのに。

——そのわりには、二人っきりになっても、副社長を見るときみたいには緊張しなかったなぁ。

   確かに、向こうのご両親がいらしたときにはちょっと固くはなったけれども。(それでも、お料理はぜーんぶ美味おいしくいただきました。ふふっ)

——初対面で、あれだけのことをぽんぽん言っちゃったもんね。

   それでも、田中さんは、まったく気を悪くしたそぶりも見せず、あたしとデートの約束をしたんだよなぁ。

   やっぱり、いきなり断るのは角が立つから、向こうも「上司」の顔を立てるつもりで、一度くらいはデートでもしてやろう、っていう気なのかしら?

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