お見合いだけど、恋することからはじめよう

佐倉 蘭

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Chap.1 お見合い相手の田中さん

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「確かに、遊ぶ相手には不自由していないのは事実だけどね」

——あ、遊ぶ相手?

「妹が結婚するし、おれも三十歳を越えてちゃんとした相手と出会いたいと思うようになってさ。そんなときに、きみのお父さんからこの話をされてね」

——その『遊ぶ相手』とは、どうなっちゃうんですか?

「それから、学生時代から知ってるきみのお姉さんとは、今さら恋愛感情は抱けないなぁ」

——たぶん、うちの姉こそ、そう思ってるでしょうけど?

「それに……別にきみのお父さんに頼らなくてもさ」

   田中さんはあたしの目を見据えた。このときばかりは、彼の目に鋭さを感じた。

「それこそ、おれなら『自力』で出世できるからね。だから……きみは、そんな余計な心配はしなくていいよ」


   やっぱり「エリート官僚」だな、と思った。

   父にも似たような不遜なところがあるから。いつも「教師」である母から叱られてるけれど……

「父の力がなくても、あなたのような優秀な方なら出世できるということは、わかりました。でも、そんなことよりも……」

   あたしの口からは、そんな言葉がぽろりと落ちていた。

「あ…あたしにとっては『遊ぶ相手』っていう方が心配ですっ!」

   いったんまろび落ちた言葉は、もう、止まらなかった。

「あなたは、そのようなひとがいるにもかかわらず、あたしとのお見合いを受けたんですかっ⁉︎」

   こんなことを言ってしまって、相手があたしをどう思うかなんて、まったく考えていなかった。

「あなたのように『オトナのおつき合い』ができる人には、二十歳ハタチ過ぎて中高生じゃあるまいし、なにを言ってるんだ、って思われるかもしれませんけどっ!」

——でも、もう止まらない。

「あたしは、たとえお見合いであっても、やっぱり好きになった人と結婚したいんですっ!そして、結婚したからには、あたし一人を愛してもらって、しあわせになりたいんですっ!!」


「……そりゃあ、そうだろう。おれも、同じさ。婚姻関係を結んだからには互いに不貞行為をしない義務が生じるのは当然じゃないか」

   田中さんは、なにをあたりまえのことを、という感じで腕を組んだ。

「それに、どこの世界に妻に愛されたくない男がいるっていうのさ?もちろん、おれだって結婚したからには、きみのお父さんみたいに妻一人を愛して、幸せにするつもりだぜ」

   どうやら父が「愛妻家」だということは、庁内にもバレているらしい。

——いやいやいや、そんなことよりもっ!

「よ、よくもまぁ『遊び相手』がいるって言っておきながら、いけしゃあしゃあと、どの口が言……」

   そう言いかけて、あたしは、はっ、と気づいた。

——しまった……

   お見合いだっていうのに、言いたい放題だった!

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