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Chap.1 お見合い相手の田中さん
⑦
しおりを挟むそして、とうとうお見合いの日がやって来た。
——うーん、年を越せば国会が始まるし年度末が迫ってくるしで各省庁は忙しくなるから、この縁談は「お流れ」になるかも……
と、思ったんだけど……甘かった。
父も母も、あたしごときを手懐ける技なんて、それこそあたしが彼らの下に産まれたときから心得ていた。
お見合いの場所は、わが国を代表する一流の老舗ホテルの中にある、毎年ミシュランの星を獲得している高級料亭だった。
こんな豪華なお昼の懐石料理なんて、今度いつ食べられるかしれやしないから、こうなったら心していただくことにする。
お見合いに臨むにあたって、あたしが『苦しいから(成人式に買ってもらった)振袖は絶対イヤ!』と言ったら、父が『上から下まで一式買ってやる』と言うので(超ラッキー♪)、あたしは会社でお見合い結婚では「先輩」にあたる朝比奈さんに、どのブランドがいいか相談した。
『……やっぱり、二◯三区とかセ◯リーとかが無難ですかね?』
すると、誠子さんが待ってました!とばかりに首を突っ込んできた。
『七海のお相手って、そこそこのおうちなんでしょ?』
実は、彼女は今までにかなりの場数を踏んだ「お見合いマイスター」だった。
——しかし、それは、未だ「ご成婚」に至っていないという「証」でもあるのだが……
『だったら、あちらの親御さんにもウケのよい、いかにも「いいところのお嬢さん御用達」で「身持ちが固そう」に見える、メタボ級の猫を被れるブランドといえば……』
考えてくれるのはありがたいが、縁遠い「マイスター」からのアドバイスって、なんだかあたしまで、御縁がはるか遠ぉーくに行ってしまいそうな……
『そうねぇ……お相手に好感を持ってもらえる落ち着いた清楚な感じで、それでいて七海ちゃんのふんわりしたかわいい雰囲気にも合うといえば……』
超イケメン副社長とご婚約されて、とびっきりの御縁がやってきた彩乃さんなら、向こう三軒両隣に生息するあたしにも「ご利益」が期待できそう!ぜひ、お願いします!!
だが、しかし——偶然にも誠子さんと彩乃さんの声が重なった。
『『ミス・ア◯ダがいいんじゃない?』』
というわけで、あたしは今日、アドバイスに従って華丸百貨店で購入したミス・ア◯ダのハニーベージュのAラインの膝丈ワンピを着て、高級料亭の個室でテーブルについていた。
ふわっとパフスリーブに、ウェストが締まって見えるフロントリボンが決め手だった。
今朝、このワンピを着てリビングに現れたわたしを、『七海、なかなか似合ってるじゃないか』『七海、すっごーくかわいいわよぉ』と、親バカ二人が褒め称えた。
お見合いと言っても、父の部下が相手なので、お仲人さんはいない。なので、隣に座る父があたしを紹介する。
「田中君、これが下の娘の七海だ」
「……水野 七海です。よろしくお願いします」
あたしとともに、父とは反対側の隣に座る母も頭を下げる。
「田中 諒志です。いつも、水野事務局長には大変お世話になっております」
目の前に座る、写真で見た少し神経質そうな顔の男性が頭を下げた。
やっぱり、すっごーく賢そうな人に見える。いや、実際にすっごーく頭の良い人なんだろうけど……
とても、このような人があたしなんかと話が合うとは思えない。
——それに、写真で見る以上にイケメンだった。
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