お見合いだけど、恋することからはじめよう

佐倉 蘭

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Prologue

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「それに、会って話をしてみないことには、合うかどうかなんて、わかんないじゃない」

   母は教師らしく「正論」というキレイゴトで返した。

「それに、写真見てごらんなさいよ。……ほら、結構イケメンじゃない?」

   指で示された先に写っていたのは、職場でBBQに行ったときのものだという。
   ちょっと神経質そうではあるが、さすがT大出身だけあって理知的な風貌をしている。

   横長スクエアのリムレスの眼鏡がすごく似合っていた。さらに、ギンガムチェックのボタンダウンの半袖シャツにチノパンをオシャレに身にまとった、すらりとした体躯だった。釣書には「身長一七八センチ」とある。

「いかにも『見合い写真』っていうのより、こういう方が普段の様子がわかるだろ?七海の写真も、家族旅行で伊豆の温泉へ行ったときにおとうさんが撮ったのを渡しておいたぞ」

   父が得意満面で言い放った。その瞬間、母の顔が歪んだ。

「おとうさんっ!なんで勝手にあたしの写真を向こうに渡すのよっ!!」

   あたしは「信じられない」という顔で叫んだ。

「まさか……海辺で潮風に吹かれて髪の毛がばっさばさになってた、あの写真じゃないでしょうねっ!?」

   そんなことになってるなんてまったく気づかず、バカみたいに笑ってる写真だった。
   にもかかわらず、父のお気に入りの一枚だ。

「い、いや……おとうさんはあの写真が……いちばん七海らしさが出てると思って……」

   父はあたしの地雷に向かって、バンジージャンプしていた。


   そのあと、すっかり拗ねてしまったわたしに、両親は双方から、
「会ってみて七海がイヤだったら、断っていいからな」「会わないでお断りするのは失礼だから、一度会ってみましょうよ、ね?」
と言って、なだめすかしてきた。

   どうやら、もう日取りもなんとなく決まっているらしい。

   もちろん、あたしの都合に合わせてくれると言うが、彼氏のいない身だし、今年二十七になる女子校や女子大出身の友達は、結婚してるか彼氏持ちばかりだから、土日の休みなんて基本的になんの予定もありゃしない。

   父が最後に言った。

「田中は、おれが今まで見てきたヤツの中でも断トツに優秀な男なんだ。見た目もいいから、いくらでも女は寄ってきそうなんだがな」

   でも、それって、もしかしたら……

「……おれだって、まさかあいつが見合い話に乗ってくるなんて思いもよらなかったよ」


——向こうは「上司の娘」のあたしと結婚して、出世の足がかりにしようとしてるんじゃないの?

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