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Chapter 1
②
しおりを挟むそれからは、これ幸いとボ◯モアのダブルロックを一人で呑っていたのだが……
「『アイラの女王』って……魅惑的な名前のくせに味は正◯丸って聞くけど、ほんと?」
一つ向こうのスツールに座ってワイル◯ターキーの一三年をストレートで呑っていた男が、わたしに話しかけてきた。
スコットランドのアイラ島にあるボ◯モア蒸留所でつくられる、その名も「ボ◯モア」というスコッチウィスキーは、大麦の麦芽百パーセントである「モルト」を使って、全行程を一つの蒸留所だけでつくるシングルモルトで、「アイラの女王」と呼ばれている。
男が言う『正◯丸の味』というのは、原料の麦芽をピートで燻すことで発する風味のことに違いない。石炭になりそこないの「泥炭」は、癖のある独特の匂いがするため、人によっては「薬くさい」という印象を持つからだ。
「ボ◯モアはスコッチにしては軽めのピートですけどね。むしろ、フルーティな甘さすら感じられるけど」
そう答えて、わたしはバ◯ラのアルクールを男に向けた。
「……ひとくち、呑んでみます?」
「いいの?」
男が上目遣いで尋ねる。
「どうぞ」
わたしは、磨き込まれた無垢のアメリカンブラックチェリーのカウンターの上にアルクールを置いて、彼の方へ滑らせた。
受け取った彼がひとくち、呑む。
「うっ……煙臭い。やっぱ、正◯丸だわ」
その端正な顔が大きく歪んだ。すかさず、目の前の水を手に取り、ごくっと飲む。
わたしは、あはは…と顎を上げて笑った。
「こんなの、旨いなんて言うヤツは『マニア』だな」
わたしの許もとにアルクールが戻ってきた。ひとくち口に含んで、じっくりとピートの芳ばしい香りを愉しむ。
——この煙臭いスモーキーなのが醍醐味なんじゃないの。
「きみは、男の好みも『マニアック』なの?」
口直しにター◯ーを呑む彼が訊いてきた。
「あなたの方こそ、万人受けする女の子が好みなんですか?」
質問を質問で返してやった。
「そうだなぁ……」
なぜか、彼がわたしの隣のスツールに移ってきた。ボスが座っていた席だ。
「これまではそうだったかもしれないけど、これからはなんだか違っていく『予感』がするな」
「わぁ……『お上手』!」
わたしはお通しチャームに出されていたピスタチオの殻を剥いて、実を口の中に放り込んだ。
「『お上手』じゃないぜ。ほんとにそんな気がするんだよ」
彼は至極マジメくさった口調で反論した。
「わたしの好みがマニアックがどうかはわからないけれど、相手の方がそうじゃないとうまくいかないのは確かですよ」
「あぁ……きみのような女を彼女にするには一筋縄ではいかない、ってこと?」
彼はうんうん、と肯く。
「違います」
わたしは間髪入れずに否定した。
「わたしを定期的に抱くには、マニアックな男でないと無理、ってことです」
——わたし、なんでこんなこと初対面の男に言ってるんだろ?
ボ◯モアのアルコール度数は四〇パーセントだった。酔いが回ってきているのかもしれない。
「どういうこと?……あっ、まさか、きみ……ヘンな性癖があるとか?」
「そんなのありませんっ」
わたしは即座に否定した。
——性癖は、至ってノーマルだと思う。たぶん……
「じゃあ、なに?」
彼が身を乗り出す。わたしが口を割るまで諦めない雰囲気だ。
——どうして、こんなことになった?
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