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Sista Kapitel
⑦〈完〉
しおりを挟む「あぁ……やはり、あなたは……」
グランホルム大尉の端正な顔が、絶望のあまり大きく歪む。
「だから……あなたも一緒に行ってくださる?」
リリはこともなげに平然と頼んだ。
だが、そのうちにだんだんと、してやったり、と彼女の口元が綻んでいく。
「……えっ⁉︎」
彼はワケがわからず、アーモンドの大きな瞳を何度も瞬かせた。
リリは今までさんざん、大尉の「不可解」な言動に、哀しくていたたまれない思いを味わわされてきたのだ。
このくらい——赦されるだろう。
「修道院に伺って、私が改宗せずにこれからもマリア様を信仰し続けることができるようになったことをNunnaに報告しなければならないの。できれば、あなたからも私が修道女になれなくなった『理由』を説明していただきたいから、ご足労だけれども、ご同行していただけないかしら?それから、カールスクルーナのカトリック教会への紹介状もお願いしなくてはならな……」
みなまで言い切ることなく、いきなりリリは大尉に抱き寄せられた。彼の胸板に、彼女の頬がとんっ、と当たる。
「もちろん行くよ。私が責任を持って、あなたを渡せないことを彼らに説明し、そしてきちんと詫びよう」
彼の心臓の鼓動が、どくどくどく…と聞こえてきた。先刻よりもずっと早い。
「あぁ……リリコンヴァーリェ嬢……あなたは『Ja』と言ってくれるんだね……?私の妻になってくれるんだね……?」
大尉はしみじみと噛み締めるように言いながら、リリをその腕に閉じ込め、かき抱いた。
……もう、決して離さない、とでもいうように。
「あら、あなたは私を『リリ』と呼びたいのではなかったの?……ビョルン」
リリは大尉の腕の中から彼を見上げた。
彼女の翠玉色の瞳は、すっかりいたずらっ子のそれになっていた。
「あぁ、そうだったな。……リリ」
まるでいたずらがバレた少年のように、大尉は気まずそうにはにかんだ。
今日は彼の初めて見る顔ばかりだ、とリリは思って、ふふふ…と笑った。
そして、リリもまた、今まで彼に見せていた「貴族令嬢並みの教育を施された淑女」ではない、家族や親しい友人だけに見せる「ありのままのリリ」になっていた。
きっとお互い、これからいろんな「知らない顔」を見せ合うことになるのであろう。
リリも、ビョルンも——二人はまだ「知り合った」ばかりだ。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
かくして、男爵グランホルム家の二男でスウェーデン王国軍の海軍士官ビョルン・シーグフリード・グランホルム大尉と、木材商「シェーンベリ商会」創業者オーケ・シェーンベリ氏の娘であるリリコンヴァーリェ・カタリナ・シェーンベリ嬢は、 Midsommarの一週間前、予定どおり花嫁の故郷にあるGustavi Cathedralにて結婚式を挙げた。
その後、晴れて夫婦となったグランホルム大尉夫妻は、Kangliga Flottanのあるカールスクルーナで新居を構えるべく、かの地へと赴いた。
「谷間の姫百合 ~もうすぐ結婚式ですが、あなたのために婚約破棄したいのです~」〈 Slutet 〉
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