17 / 25
Kapitel 4
③
しおりを挟むリリは仰天した。
「ま、まさか……そんなことあるはずが……」
——今の自分の言葉から、いったいどうしてそのような話になるというのだろう?
「あなたは、婚約不履行による違約金および慰謝料を気にして、『生まれや育ちに隔たりのない男』のことを否定するのではないのか?」
大尉は訝しげにリリを見た。
「私……そんな卑怯な真似はしなくてよ」
青白かったリリの頬に、すっと赤みが差した。
「万が一、私にそのような方がいるのであれば、あなたに正直にお話をして許しを乞うわ。……神に誓ってもよくてよ」
貴族階級から見れば下賤に映る商家の生まれであっても、矜持というものはあるのだ。
「それに、今回の件に関して発生したあなたへの『お詫び』は、私自身が責任を持ってきちんとお支払いするつもりよ」
「リリコンヴァーリェ嬢、それを履行するのは『あなた』ではなく——『あなたの父親』なのでは?」
大尉は腕を組んで、冷ややかに問う。
「いいえ、『私』よ。私には、結婚する際に父から譲られる持参金があるもの。そちらをそっくりそのまま、あなたにお渡しするわ。あなたが私と結婚することで受け取れるはずだったものよ」
リリはきっぱりと言い切った。
——慰謝料として払った持参金の残りは、教会などへの慈善活動に寄付しようかと思っていたけれど、しかたがないわね。でも、ここまですれば、さすがに彼の男爵家も「納得」するでしょうよ。
「それでは、今後あなたが結婚する際の持参金がなくなるのではないのか?」
「ええ、そうね。でも、ご心配はご無用よ。私はもう、どなたとも結婚するつもりなんてないから」
一介の商人の娘が、式の直前になって貴族の子息との結婚を一方的に反故にするのだ。
今まで父親が地道にこつこつと積み上げてきた地位も名声も、大いに損わせるに違いない。
「多大なるご迷惑をおかけするあなたには、私にでき得る限りの謝罪をする覚悟もしているし、またその準備もできていてよ。だから、どうか私の父やシェーンベリの家に対しては、咎めないでいただきたいの」
——どのみち、このような娘にまともな縁談など、来るはずがない。
「私はもうすぐ……修道院へ入る手はずになっているの。そこで、修道女として神様に仕え、毎日あなたへの懺悔をしながら、世の中の人のために奉仕活動をして生きていくつもりよ」
「……修道院?」
険しい表情の大尉の眉の片方が上がった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる