谷間の姫百合 〜もうすぐ結婚式ですが、あなたのために婚約破棄したいのです〜

佐倉 蘭

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Kapitel 3

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『探したよ……こんな庭の外れにいたのか』

   ふと声がして、四阿あずまやの出入り口に目を向けると、グランホルム兄弟が立っていた。

『ビョルンが見当をつけて探していたから見つけられたものの、いくら陽が高い時季といえ、もう夜の九時を過ぎているんだ。こんな人目につかない場所で、女性二人きりでいられる時間ではないよ』

   兄のグランホルム氏が、婚約者に右手を差し伸べながらたしなめる。

『あら、心配をかけてしまったわね。ごめんあそばせ、アンドレ』

   ウルラ=ブリッド令嬢は、悪戯いたずらが露見したおさない子どものように肩をすくめた。

『リリコンヴァーリェ嬢、それぞれにお迎えも来たことだし……そろそろ戻りましょうか』

   婚約者の手を取った彼女は、ふふふ…とリリに向かって微笑んだあと、ちらりとグランホルムの弟の方を見た。

   すると、彼も自分の婚約者に右手を差し出した。リリはカーツィをして、恭しく彼の手を取った。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   彼らは四阿あずまやをあとにした。

   グランホルム氏とウルラ=ブリッド令嬢が腕を組んで歩き、谷間の姫百合リリコンヴァーリェの咲き誇る一角から、広間ホールへと戻る小径こみちに出る。
   グランホルム大尉とリリも、彼らの後方で同じく腕を組んで歩く。

   前を行く二人は仲良さげに顔を見合わせながら、話題に事欠くことなく会話が続いていた。
   だが、後ろの二人は互いにむっつり押し黙ったままだった。

『あ…あの……グランホルム大尉……』
   とうとう沈黙を破って、リリは話しかけてみた。

   大尉がリリを見る。

   彼女は女性の中では背の高い部類ではあるし、今はかかとが相当高い履物なのだが、それでも頭半分くらいの身長差があるため、彼が見下ろす形になる。

『先ほど、ヘッグルンド令嬢から伺って……大尉は、乗馬がお好きだとか……』

   そして、リリは思い切って顔を上げ、大尉に訊いてみた。

『あの……それで……これを機会に、私も乗馬をやってみようかと……』

『…………ない』

   即座につぶやかれた大尉の声はくぐもり、至近距離のはずのリリにさえ聞き取れなかった。

『はい?……申し訳ありません。うまく聞き取れなくて……』

   すると、今度は、はっきりと告げられた。


『あなたが乗馬など、する必要はない』

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