わかばの恋 〜First of May〜

佐倉 蘭

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First of May

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「……今日から五月だね。翔くんはゴールデンウィーク中はバイト忙しいんでしょ?」

   目だけでなく話も逸らしたあたしは、また橋の欄干に駆け寄った。

   翔くんはそんなあたしにチッ、と舌打ちしながらも、
「おまえも今夜シフト入ってっだろ?だから、迎えに来てやったのに」
   ゆっくりとした足取りであたしの隣に並び、欄干に肘をつく。

「よくあたしのいる場所がわかったね?」

「前に、おまえ、ここから見る風景が好きだって話してたじゃん。イヤなことがあったら必ずやってきて、気分転換するって」

   橋の上から二人で、川の流れに沿うようにして植えられている堤防の桜並木を見下ろす。
   残念ながら、桜の花はとうにすっかり散ってしまったけれど……

   でも、生まれ変わるようにして芽吹いた葉は、これから新緑の季節を迎え、ますます勢いを増していくことだろう。


   物心ついた頃から抱えてきた将吾さまへの想いは、そうそう簡単には消せはしない。

   だけど、それでも——

   新しく芽吹いたこの新緑のように、あたしもいつの日かまたもう一度、だれかを好きになれたらいいのにな、とは思う。

   今度は、無理に大人になろうと背伸びをしなくてもいい、こんなふうに肩を並べられるひとと……


   あたしは将吾さまとはまったく違う、隣の黒髪のひとを、顔は向けずに視線だけで見た。

——翔くん、ありがとう。こんなあたしを、心配して迎えに来てくれて。

   そして、そのとき、ふと思った。


   やっぱり——

   王子様って……この世にほんとにいるんだ。









「わかばの恋 ~First of May~」〈 完 〉
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