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Epilogue
①
しおりを挟む麻琴はショックだった。
——これが、わたしの「実力」とは思われたくないんだけども……
はっきり言って、麻琴は料理が得意だ。
青山との不毛な関係を解消して、彼のためにと通っていたクッキングスクールはすでに辞めていたけれど、最上級者クラスを受講していたのだ。
カフェや小料理屋の開業を夢見る者はもちろん、自宅でスクールなどを開講しようとする者や、夫の仕事の関係で海外の人たちをホームパーティに招待する必要のある者たちが集まるクラスだった。
「……ねぇ、恭介さん。ブランチだからこの程度でいいけれど、夕食前には買い物に行かせてくれるわよね?」
麻琴はテーブルの上の玉子丼を見た。鶏肉の入った「親子丼」でも、牛肉の入った「他人丼」でもない、ただの「玉子丼」である。
恭介はほとんど外食で済ませているらしく、玉子・玉ねぎ・食パン・サ◯ウの白ごはんくらいしかこの家で食材を見つけられなかった麻琴は青ざめた。
そこへ、恭介が今年の御中元でもらったという「焼津産・特選花かつお」をサービスルームから「発掘」してきた。
料理をしない恭介は実家へ持って行こうと思いつつ、そのままにしてあったそうで、麻琴は引ったくるように花かつおを手にして、その箱ごと頬ずりした。
——これで、お出汁がとれるわっ!
そしてつくったのが、この玉子丼である。
「その必要はないよ。もう、つくらなくていいんだから」
玉子丼をものすごい勢いで食べている恭介が、きっぱりと告げた。
——あら、『和』は口に合わなかったのかしら?
そういえば、今まで二人で食事したのはフレンチやイタリアンばかりだった。
そのわりには、一口食べたとたん『こんなに美味い玉子丼、初めて食べたよっ!』と、最大限の賛辞を送っていたのだが。
「麻琴は料理をしだすと、すっごい集中力で僕のことを放ったらかしにするからね。だけど出かけるのもイヤだから……夕食はデリバリーにしよう」
「えっ、確か一五分ほどでしたよね?」
それほど手際が悪いとは思えなかった。
「ディナーなら一時間は料理にかかりっきりになるだろ?」
——そりゃあ、夕食ではそうでしょうね。
「そんなの、やだ。耐えられない」
麻琴のことを『会社でマコッティと呼ぶ』と言ったときの顔になっていた。かなりめんどくさそうなことになっている。
すると恭介は、ダイニングテーブルの隣に座っていた麻琴を引き寄せ、自分の膝の上にひょい、と乗せた。
「ちょ、ちょっと恭介さんっ!わたし……結構、重たいわよ?」
あわてる麻琴の頬に、ちゅっ、とキスをして、
「そんなことないよ。きみのカラダの重さは、昨夜、じゅうぶん身をもって知ったよ」
恭介は最愛の麻琴をカラダごとぞんぶんに愛せた、しあわせな一夜を思い浮かべる。
「もう絶対に……一生、離さないからね」
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