真実(まこと)の愛

佐倉 蘭

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Last Chapter

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   有明テニスの森駅近くの、そびえ立つタワーマンションの前に、恭介と麻琴はいた。

「ここって……もしかして……」

「そうだよ、僕の家」

——いやいやいや、そうじゃなくって……

   まさか、こういうシチュエーションで「彼のマンション」に来るとは思わなかった。
   あの頃、ここに住んでいることは知っていたが、最後まで招き入れられることはなかった場所だ。

——まぁ、だからと言って「彼の部屋」へ行くわけじゃないけれど……

「ここね……ややちゃんが住んでいるマンションなのよ」

   かつて、麻琴がばれたかった部屋の主と一緒に住んでいる。

「あぁ……だって、青山さんに紹介してもらったからね」

   なにも知らない恭介は、得意げに言う。

「帰国してしばらくは実家に住んでたんだけど、いろいろと家族が煩わしくてね。青山さんに『どこか良い物件はないか』って相談したら『セキュリティはもちろんのこと、コンシェルジュがしっかりしてて、良いマンションだから』って勧められたんだ。実際に住んでいる人がそう言うのなら、間違いないでしょ?」

   恭介はそう言いながら、エントランスへ向かう。


   エントランスを立ち塞ぐ巨大な自動ドアが、恭介の指紋認証で解除され、うぅぃーんと開いたと思ったら、そこにコンシェルジュがかしずいていた。

「……お帰りなさいませ、松波様」

「ただいま、テンシくん」
   松波はコンシェルジュに上機嫌で挨拶した。

——『テンシくん』って、「天使」ってこと?まぁ、「名は体を表す」って感じだけど。

   ホテルのドアマンのような制服を着たコンシェルジュの彼が、まるで王子様のような雰囲気のイケメンだったからだ。

「恭介さん、今の僕は『業務中』なので……」
   「テンシくん」と呼ばれたコンシェルジュが苦笑いする。

「じゃあ、君の『業務』にも関わることを。紹介しておくよ。僕の奥さんになる麻琴だ。青山さんと同じ会社に勤務してるんだ。彼の奥さんとも友だちだよ」

   恭介が麻琴の腰を引き寄せ、紹介する。

「ええぇっ⁉︎ 恭介さん、とうとう結婚されるんですかっ⁉︎」

   テンシくんがものすごく驚いている。

「いやぁ、てっきり一生独身のままかと思っていましたよー!もしかしたら、女性には興味ないんじゃないかと……」
と言ったところで、恭介からばしっ、と背中をはたかれる。思わず「てっ!」と顔をしかめる。

「ちょ、ちょっと、恭介さんっ⁉︎」
   麻琴があわてて間に入る。

「あぁ……彼ね、僕の妹の麗華の同級生で、ガキの頃から知ってるんだよ。ま、こいつがコンシェルジュの一人だっていうのも、ここに住むことにした理由の一つだけどね」

   恭介がぎろり、とテンシくんを睨む。

「はじめまして、大橋 典士のりあき と申します。辞典の『典』に武士の『士』なので、子どもの頃から『テンシ』って呼ばれてます」

   深々とお辞儀をしながら、典士は名乗った。確かに胸のネームプレートには【大橋 Ohashi】とある。

——あれ? 『おおはし のりあき』って名前、どこかで聞いたような……

「こいつね、こう見えてね。……大橋コーポレーションの御曹司なんだよ」

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