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Last Chapter
①
しおりを挟む十月末に、麻琴は三十四歳の誕生日を迎える。その月の初旬、一足先に恭介が三十九歳の誕生日を迎えていた。
せっかく同じ月なのだから、お祝いは一緒にしようということで、今週末に逢うことになった。ちなみに、同じ誕生月でも恭介はてんびん座だが麻琴はさそり座である。
——うーん、バースデイプレゼントは、なににしようかしら?
知り合ってまだ半年の二人にとって、初めての誕生日プレゼントになる。
別にサプライズで驚かせてみましょう、なんていう歳でもないので、麻琴は直接本人にL◯NEのトークでほしいものがないか訊いてみた。
すると、すかさず通話がかかってきた。
『麻琴でしか僕に渡せないものがあるけれど、別に用意するものでもないからいいよ』
意味不明な「なぞなぞ」のような返答だった。
「そういうわけにはいかないわ。恭介さんのためにちゃんと用意したいから、せめてヒントくらいください」
麻琴がそう食い下がると、
『僕はすでに用意しているけれど、お金は特に掛かってないから、きみは本当になにも用意しなくていいんだよ』
さらに意味不明な返答が来た。
そこまで言うのなら、と思った麻琴は本当になにも用意せず行くことにした。
——まぁ、向こうがなにかくれたら、その日の食事代か呑み代を奢ればいいわね。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
恭介が、初めて二人で迎える誕生日を祝う食事のお店に選んだのは、意外にも閑静な住宅街の中にある昔ながらの「洋食屋さん」だった。
カウベルの音とともに年季の入った木のドアを開けると、
「まぁ、恭介くん、いらっしゃい」
自分たちの母親世代の女性が出迎えてくれた。
「この店のマダムだよ」
恭介が麻琴に告げる。
そして、マダムに向かって「渡辺 麻琴さんです」とだけ紹介する。麻琴はマダムに会釈をした。
「渡辺さん、お越しくださってありがとうございます。恭介くん、どうぞ二階に上がってちょうだい」
マダムから促されて、恭介は麻琴を連れて二階へ上がった。
二階はパーティスペースの大部屋とワンテーブルだけの小部屋とに分かれていて、恭介は小部屋の方の扉を開けた。
そして、中央にあるテーブルに着く。
「ここは先代の頃から家族で通っている店でね、特に祖父母が気に入っていたんだ。僕も妹も、よちよち歩きの頃から来ているんだよ。この個室だと、ほかのお客さんの迷惑になりにくいからね」
先刻の恭介とマダムの話しぶりで、恭介の家族とこの店の関係がなんとなくわかった。
「せっかくの誕生日だから、もしかしてフレンチとかイタリアンのコースなんか期待してた?」
恭介が「だったら、ごめん」という口ぶりで、麻琴の様子を伺う。
「全然、大丈夫よ。むしろ、楽しみです。だって、こういう家族代々からの常連さんたちに愛されてるお店って絶対に美味しいでしょ?」
麻琴はそう言って、テーブルの上に置かれていたメニューを手にとる。
「ねぇ……このタンシチュー、ものすごく美味しそうなんだけど」
メニューの写真を見ながら、恭介に指し示す。
「おっ、目敏いね。この店の名物だよ」
恭介は心底うれしそうに笑った。
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