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Chapter 7
②
しおりを挟む「えっ……課長、転勤するんですかっ?」
——この十月に、MD課に異動したばかりなのに?
「あぁ、そうだ。だが、ここだけの話だぞ?正式な辞令はまだなんだ。だから、絶対に他言無用にしてくれよ?」
麻琴はこくこくっ、と上下に首を振った。
「本当は先日の大規模な人事異動の際に、大阪支社に営業部長として赴任するはずだったんだけどな。ロハスに新設するMD課が軌道に乗るまで、半年でいいから課長として行ってくれ、って言われてさ。……でも、それって『半年で軌道に乗せろ』ってことだよな?」
守永は片方の口角を上げて苦笑した。
——守永さんが、半年後に大阪へ行っちゃう?
ということは、彼の元妻で麻琴の友人でもある瑞季とまた、一緒の支社で働くことになるのだ。
——あの状態から、せっかく立ち直ったっていうのに……
動揺して蒼ざめる瑞季の顔が脳裏に浮かび、思わず麻琴の眉間にぐーっとシワが寄る。
しかし、次の瞬間、そんな感傷的な思いは見事に吹っ飛んだ。
「なぁ……麻琴、おれと一緒に大阪へ行かないか?」
——わ、わたしも大阪支社へ⁉︎
いきなりのことに戸惑う麻琴を尻目に……
「麻琴はこの会社にはプロダクトデザインをやるために入ってきたとは思うけどな」
守永は、頬杖をついていた体勢からいきなり姿勢を正した。
「おれは、きみが実は『人材管理』の方に向いていると思ってる」
確かに自分には芝田のようなデザイナーとしての感性も才能もないということを、麻琴は美大時代からすでに、だれよりも実感していた。
「……誤解するなよ?プロダクトデザイナーとしての渡辺 麻琴は劣る、という意味で言ったわけじゃない」
とたんに表情を曇らせた麻琴に、守永は「まいったな」という顔になる。
「青山のチームで——あ、今は部長か……大量生産しないMD課にもかかわらず、ヒット商品を飛ばしまくったのは、麻琴の女子受けする洗練されたデザイン力の賜物でもあるんだ。営業先で、OLが『オシャレでかわいい~♡』って文具で悶えてる姿を目の当たりにしたおれが言うんだから間違いないぜ」
「そ、そうですか?」
さすがの麻琴も、ついはにかんでしまう。
——瑞季を泣かしたサイテーなヤツだけど……昔から相手が一番喜ぶツボを、確実に、しかもさりげなく、突いてくるのよねぇ。
営業成績が良いのがよくわかった。要するに「人誑し」なのだ。
それも彼自身は特に意識することのない「天然」ときている。
「それに、きみは立場の違う人の話でもしっかり聞けて、自分たちのプランにきちっと反映させられるしな。それはまだお互い二〇代の頃勤務していた大阪支社のときから感じていた。そして、数年ぶりに会ったきみには人脈もあり、人材をつなぐ調整力も備わっていた。ますます、デザイナーとして『個の力』を発揮するだけでは惜しいと思ったんだ」
そして、守永が麻琴の瞳をじっと見つめる。
「きっと麻琴なら、集団のそれぞれの力を引き出しながら引っ張っていける。……いいリーダーになれると思うんだよ」
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