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Chapter 7
①
しおりを挟む「……あ、やっぱそのピンキー、麻琴さんによく似合ってますよぉ~!」
紗英が麻琴の右手の小指に復活したオパールのフォークリングを眺めて、しみじみと言った。
麻琴の顔が苦虫を潰したようになる。
——結局、元の木阿弥になってしまったわ……
そのとき、出先からMD課に戻ってきた守永が、麻琴に声をかけた。
「麻琴、この前きみが打ち合わせをしたグラフィックデザイナーから、なにか連絡があったか?」
「はい、ありました。早速クリエーターをリストアップしてもらって、今までの主な作品を添付して送付してくれました」
麻琴は、タブレットの画面上にあるメールボックスをタップして開けながら答える。
芝田からは、あれから一週間も経たないうちに必要なデータが次々と送付されてきた。
「そうか。じゃあ、話はミーティングルームで聞くよ」
守永はそう言って、MD課の奥にあるミーティングルームへと足を向けた。
麻琴もあわてて、手元にあった一式を抱えて、デスクから立ち上がった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
ミーティングテーブルについた麻琴は、早速、現状を報告しはじめた。
「この前のデザイナーとの打ち合わせでは、芝田氏が『世に出たい若手クリエイターにはもってこいのチャンスで、ボランティア関連はイメージ的にもいいし、成功すれば今後、一般企業に売り込むときに『使える』キャリアになる』とおっしゃってました」
麻琴から渡された、
【芝田 淳 / Shibata Atsushi
Art Director&Graphic Designer】
の名刺を見ながら、守永が「そうか」とつぶやいた。
「それから、初めから中身とフレームを固定せずに、同じ規格の中身とフレームを何種類かつくって、買う側が自由に組み合わせられる『選択肢』を用意し、最終的にその作品を『完成』させるのは『自分自身』だ、というふうに仕向ければどうか、というご提案もいただきました。あと、A◯BやJリーグみたいに『入れ替え制』にしてクリエイターたちを競わせ、売り上げ下位の者は次のシリーズの作品がつくれないようにするプランもありまして……」
「へぇ……どうやら、おもしろそうな新商品になりそうだな、麻琴?」
腕を組んで聞いていた守永が、にやりと笑った。
「それからさ、上林が『異動願』を取り下げてくれって頭を下げに来たよ。……ま、おれの手元で留めていて人事にはまだ出してなかったけどな」
——えっ、上林くん、そんなにわたしの下で働くのがイヤだったのっ⁉︎
「つい先日異動したばかりなのに、古巣へ戻りたいなんて異動願を申請するってのはさ。もちろん上司である麻琴が『リーダー失格』と評価されちまうってのもあるが、上林の方だって『堪え性のない人間』と見做されて、人事の心証が悪くなるんだぜ」
——まぁ、わたしが人事部でもそう思うわね。
「麻琴からはなかなか企画が上がってこないわ、上林とは剣呑な雰囲気になっていて岡本がおろおろしてるわ、宥めようとしても営業のおれは外回りでなかなかオフィスにいられないわで、このチームはどうなることかと心配したけどさ」
守永がテーブルに左手で頬杖をついて、ニヤリと笑う。その薬指には、今日もシンプルなプラチナリングが見える。
「なんとかおぼろげながら新商品の形が見えてきたからな。上林もようやくMD課独自の商品開発のおもしろさがわかってきたのか、『名刺代わりの「代表作」をつくるまでは古巣に戻れないからがんばります』って言いだしたぞ」
——まだまだ、やっとスタートラインに立ったか立たないか、って感じだけどね。
「……おれが、まだ本社にいるうちでよかった」
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