真実(まこと)の愛

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
49 / 76
Chapter 6

しおりを挟む

   芝田に妻子がいることも理由の一つだ。

   だから、人妻だった美咲を離婚させてまで結婚に至った魚住のヴァイタリティには、スタンディングオベーションしたいくらいだ。

   また別に既婚者でなくとも、かつて好きだった人への愛を復活させてさらに持続させるというのは、新しい人と初々しく恋愛を始める以上に厄介で、めんどくさいことがてんこ盛りだと思う。

   だから、小学生の頃の初恋の相手だったややと、再会するなりたった一ヶ月ほどで結婚へと踏み切った青山にもスタンディングオベーションだ。

   いずれにせよ麻琴には、一度「別れ」を経験していることで、一緒にいてもまた同じことの繰り返しになるのではないか、という懸念が心のどこかに魚の骨みたいにずっと引っかかっていて、いつまでも取れないような気がしてならないのだ。

   だが——そんなことよりも……

   そもそも麻琴の芝田に対する思いが、つき合っていたあの頃から「友情」以上のものではなかったからかもしれない。
   麻琴にとって、ちゃんとおつき合いした唯一の彼氏であったというのに。

   そして、それを今日、数年ぶりに芝田と再会してみて、麻琴はまざまざと思い知ったのだった。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


「わたし、まだ仕事がありますので失礼します」

   麻琴は立ち上がった。こんなところで無駄な時間を消費してたら、また残業だ。

「あ、そうなの?もうすぐ定時だから、このまま直帰かと思って、これからきみとなにを食べに行こうかな?って考えてたんだけどね。じゃあ、僕も一緒に会社へ行くよ」

   当然のように恭介も立ち上がる。周囲のテーブルにいた老若問わず「女子」の視線が釣られて自然と上がる。彼はいつの間にか、注目の的になっていた。

   しかし、麻琴はそんな周囲の視線に構っている場合ではなかった。

——『一緒に会社へ』なんて、とんでもないっ!

「僕ね、きみのこと『麻琴』って呼べるようになってうれしいんだけど、『マコッティ』って呼ぶのも、やっぱり捨てがたいんだよねぇ」

   恭介は持ち前の「不屈」の精神で、まだ空恐ろしいことを言っていた。

——とびっきりの魅惑的な笑顔なのに、どうしてこんなに「真っ黒けっけ」に見えるのっ⁉︎

「ねぇ、マコッティ。以前のように、また僕の出勤日の終業後には、一緒に食事へ行ってくれるよね?」

——その呼び名でわたしを呼ぶのは、やーめーてーええぇ……っ!

   麻琴が拒否れば、恭介が会社のみんなの前でそう呼ぶのは明白だ。
   なので、首を縦方向に下げる以外に、麻琴に残された道はなかった。


「それと……僕がプレゼントしたリングも、ちゃんと毎日つけるんだよ?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

カラダから、はじまる。

佐倉 蘭
現代文学
世の中には、どんなに願っても、どんなに努力しても、絶対に実らない恋がある…… そんなこと、能天気にしあわせに浸っている、あの二人には、一生、わからないだろう…… わたしがこの世で唯一愛した男は——妹の夫になる。 ※「あなたの運命の人に逢わせてあげます」「常務の愛娘の『田中さん』を探せ!」「もう一度、愛してくれないか」「政略結婚はせつない恋の予感⁉︎」「お見合いだけど、恋することからはじめよう」のネタバレを含みます。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【完結】出戻り妃は紅を刷く

瀬里
キャラ文芸
 一年前、変わり種の妃として後宮に入った気の弱い宇春(ユーチェン)は、皇帝の関心を引くことができず、実家に帰された。  しかし、後宮のイベントである「詩吟の会」のため、再び女官として後宮に赴くことになる。妃としては落第点だった宇春だが、女官たちからは、頼りにされていたのだ。というのも、宇春は、紅を引くと、別人のような能力を発揮するからだ。  そして、気の弱い宇春が勇気を出して後宮に戻ったのには、実はもう一つ理由があった。それは、心を寄せていた、近衛武官の劉(リュウ)に告白し、きちんと振られることだった──。  これは、出戻り妃の宇春(ユーチェン)が、再び後宮に戻り、女官としての恋とお仕事に翻弄される物語。  全十一話の短編です。  表紙は「桜ゆゆの。」ちゃんです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

処理中です...