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Chapter 6
⑧
しおりを挟む芝田に妻子がいることも理由の一つだ。
だから、人妻だった美咲を離婚させてまで結婚に至った魚住のヴァイタリティには、スタンディングオベーションしたいくらいだ。
また別に既婚者でなくとも、かつて好きだった人への愛を復活させてさらに持続させるというのは、新しい人と初々しく恋愛を始める以上に厄介で、めんどくさいことがてんこ盛りだと思う。
だから、小学生の頃の初恋の相手だった稍と、再会するなりたった一ヶ月ほどで結婚へと踏み切った青山にもスタンディングオベーションだ。
いずれにせよ麻琴には、一度「別れ」を経験していることで、一緒にいてもまた同じことの繰り返しになるのではないか、という懸念が心のどこかに魚の骨みたいにずっと引っかかっていて、いつまでも取れないような気がしてならないのだ。
だが——そんなことよりも……
そもそも麻琴の芝田に対する思いが、つき合っていたあの頃から「友情」以上のものではなかったからかもしれない。
麻琴にとって、ちゃんとおつき合いした唯一の彼氏であったというのに。
そして、それを今日、数年ぶりに芝田と再会してみて、麻琴はまざまざと思い知ったのだった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「わたし、まだ仕事がありますので失礼します」
麻琴は立ち上がった。こんなところで無駄な時間を消費してたら、また残業だ。
「あ、そうなの?もうすぐ定時だから、このまま直帰かと思って、これからきみとなにを食べに行こうかな?って考えてたんだけどね。じゃあ、僕も一緒に会社へ行くよ」
当然のように恭介も立ち上がる。周囲のテーブルにいた老若問わず「女子」の視線が釣られて自然と上がる。彼はいつの間にか、注目の的になっていた。
しかし、麻琴はそんな周囲の視線に構っている場合ではなかった。
——『一緒に会社へ』なんて、とんでもないっ!
「僕ね、きみのこと『麻琴』って呼べるようになってうれしいんだけど、『マコッティ』って呼ぶのも、やっぱり捨てがたいんだよねぇ」
恭介は持ち前の「不屈」の精神で、まだ空恐ろしいことを言っていた。
——とびっきりの魅惑的な笑顔なのに、どうしてこんなに「真っ黒けっけ」に見えるのっ⁉︎
「ねぇ、マコッティ。以前のように、また僕の出勤日の終業後には、一緒に食事へ行ってくれるよね?」
——その呼び名でわたしを呼ぶのは、やーめーてーええぇ……っ!
麻琴が拒否れば、恭介が会社のみんなの前でそう呼ぶのは明白だ。
なので、首を縦方向に下げる以外に、麻琴に残された道はなかった。
「それと……僕がプレゼントしたリングも、ちゃんと毎日つけるんだよ?」
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