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Chapter 5
③
しおりを挟む「……ということで、わたしは美大時代の友人・知人でこのコンセプトに賛同して作品を提供してくれる人をピックアップしてみるわ。それで、環境保護以外にもいろんな活動をするNPOを知りたいんだけど……」
麻琴はタブレットで検索しながら言った。クリムゾンレッドに染められた鞣し革のケースは、稍と美咲からのプレゼントだ。
「だったら、上林さんが最適ですよ」
紗英がひひひ…と笑いながら上林を見る。
「すいません。実は、おれの彼女が保護犬や保護猫の世話をするNPOにいまして……」
上林が気まずそうにぽりぽりと顳顬を掻く。
「捨て犬や捨て猫たちが一匹でも殺処分から逃れられるように活動している、ちゃんとした団体なんっすけど」
「へぇ、そうなの?」
麻琴が目を見開く。
犬や猫の絵や写真は好きな人たちにとっては堪らないはずだし、「寄付」も兼ねているとあれば興味を持ってくれやすいだろう。
「いいんすか?……公私混同になりませんか?」
「いいわよ。公私混同でもなんでも。こっちはエセじゃなくて、きちんと活動実績のあるところと組みたいのよ。そういう団体であれば、ぜひ、この企画のお話をしてちょうだい」
「じゃあ、あたしは実績のあるNPOを調べてみますね。個人的には経済的に苦しいシングルマザーやその子どもたちをサポートする『子ども食堂』とかをあたってみたいんですけど、いいですか?実は……うちが母子家庭だったんで」
紗英がおずおずと申し出る。
「もちろん、いいわよ。飢餓や難民など地球規模の問題も大事だけれど、同じ国内での喫緊の問題もとても大事だわ。ボランティアって、まずはできる身近なところから始めてそこからどんどん広げていく、というのが鉄則だもの」
「あたし……この仕事で、シンママの家庭を少しでも助けられるかもしれないなんて思いもよらなかった……すごくうれしい」
紗英は涙ぐんでいた。
「とりあえず、その線で進めていくことにしましょうよ。……いいですよね?守永課長」
麻琴が守永を見る。
「もちろんだ。それじゃあ、おれは素材に使う環境にやさしい木材やプラ材のサンプル調達と、環境保護をしている団体の目星でもつけるかな」
守永がふっ、と笑った。今までみたいな皮肉交じりのようなものではなく、どことなくホッとした笑みだった。
「……あれ、麻琴さん。ピンキーリング、どうしちゃったんですか?」
今まで涙ぐんでいたはずの紗英が、もうけろっとして麻琴の右手を見ていた。
「あのオパールのフォークリング、すっごくお似合いだったのにぃー!」
麻琴の眉間に、知らず識らずのうちにシワが刻み込まれる。
ピンキーリングは未だ、リビングにある造り付けシステム収納の引き出しの中だ。早く松波に会社で突っ返したいのに、取り出してもいなかった。
あのリング自体——見たくないのだ。
なんだか居たたまれなくなって、つい目線を上げると、守永の視線にぶつかった。
「……外したのか?」
探るような声の調子だった。
あのリングをだれからもらったかを知っているのは、この中では守永だけだ。
麻琴はただ黙って肯くしかできなかった。
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