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Chapter 4
③
しおりを挟む久城 礼子は、ジュエリーブランドJubileeの専属ジュエリーデザイナーである。
さらに、ブランドイメージを体現するためのアイコンとして、雑誌などの媒体ではモデルも務めていた。道理で、女優やモデル並みの美しさのはずだ。
「あれっ、男の方は確か……うちの産業医になったばっかのヤツじゃないか?」
守永が松波に気づいた。
「でも、あいつ、この前医務室で……」
「守永さん、お腹もいっぱいになったことだし、お店変えましょうよ?」
麻琴はその声を遮るように、バルパライソから同じエ◯メスの財布を取り出す。
けれども、守永がそれを「いいから」と制した。内ポケットから自身の財布を取り出して、中からカードを引き抜き「チェックしてくれるかい?」と杉山へ渡した。
そして、会計を済ませた守永は、
「さぁ、麻琴、行こう」
と言って、彼女を抱えるようにしてハイストールから立ち上がらせた。
それから、守永は杉山に向かって、
「それじゃ、これからも麻琴をよろしく」
と告げて、彼女の肩をふわりと抱いて出入り口へ向かった。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
杉山は恭しく一礼した。
店の中に入って来た彼らとすれ違いざま、麻琴は軽く会釈した。
久城 礼子はにっこりと笑顔で応えてくれた。
もしこのような状況でなければ……
「こんなに綺麗な有名人なのに、全然エラそぶったところがないわね。きっと、いい人なんだわ」と麻琴は思ったに違いない。
でも、松波がどんな顔をしているかはわからなかった。なぜなら、麻琴が松波のことを一切見ていなかったからだ。
そして松波自身も、麻琴にいっさい話しかけることはなかった。
「……恭介、安心して。ソーテ◯ヌのシャトー・デ◯ケムとまでは言わないから」
背後から、魅惑的に響く声が聞こえてきた。久城 礼子が松波の名前を呼び捨てにしていた。
「翔くん、今夜はどんなワインをいただけるのかしら?恭介と愉しみにして来たのよ」
杉山のことも下の名前で呼んでいる。麻琴は見かけたことがなかったが、彼女はかなりの「常連」のようだ。
「ソーテ◯ヌでしたら、シャトー・ギ◯ーならございますよ。バルザ◯クでよろしければ、シャトー・ク◯マンやシャトー・ク◯テはいかがでしょうか」
杉山が奥のワインセラーに眠るフランス産貴腐ワインのボトルを思い浮かべながら応じていた。彼はソムリエの資格も持っている。
——この女とは、いつもワインなんだわ。もしかしたら、松波先生はわたしに合わせてウィスキーにしていただけなのかもしれない。
麻琴は湧き上がってくる、えも言われぬ気持ちを、ぐっ、と抑えて、守永とともにViscumをあとにした。
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