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Chapter 3
⑧
しおりを挟む「ええええぇーーっ⁉︎ 守永課長って、鬼畜野郎じゃーんっ!」
麻琴と美咲から「説明」を受けたあと、稍は思わず叫んでいた。
「ええぇーっ、すっごいショックぅー!麻琴ちゃんの話を聞いてると、普段は飄々として掴みどころがないくせに、いざっていうときに頼りになるって感じで、あたし的には結構ツボだったのにぃ~!」
稍は身悶えながら息巻いている。
——あら、それをあなたの「智くん」にチクったら、守永さんの命が保証できなくなるわね。
「あ、わかるー!守永くんってさ、和哉とか智史くんのような派手さはないけれど、長身でイケメンだしね。しかも、なんだか麻琴ちゃんを上林くんって子から、さりげなーく『守って』くれてるような気がしない?そういうの、あたしもツボるかもー」
美咲がうんうん、と肯いている。
——これがあなたの「和哉」に知れたら、守永さんは、魚住さんと青山さんの二人によって確実にこの世から抹殺されるわね。
「とりあえず、前の奥さんを泣かせた不届き者の守永くんのことは置いといてさ。麻琴ちゃん自身は松波先生のこと、どう思ってるの?」
美咲さんからやんわりではあるが、まさに「核心」をずばり突かれる。
「えーっと……いい人だとは思うんだけど……」
お茶を濁すような言い方かもしれないが、これが麻琴の本心だった。
「ふうん……ということはさ、松波先生にどっか『引っかかる』とこがあるっていうことよね?」
稍がさらに、ずぶっと突いてくる。
「この歳だから、おつき合いするのなら、やっぱり『結婚』を視野に入れて、と思っているんだけど……やっぱり家庭環境が違い過ぎるっていうのが、ネックかしらね」
観念して、麻琴はつぶやく。
「あの『松波屋』の御曹司だもんねぇ」
稍には彼の「家業」を教えてあった。
「ええっ、そうなの⁉︎ あの老舗デパートの⁉︎」
美咲は目を丸くしている。
「松波先生は、家業を継ぐことはないから、大丈夫っておっしゃるんだけど……」
「うーん……甘いな、それ。そんな立派なおうちだったら、結婚なんてしたら、きっといろいろと面倒なことがあるよ?」
美咲が眉根を寄せて鼻白む。
「うちのような家なんかでもあるもん。和哉の両親って離婚してるんだけど、それぞれ再婚して新しい家庭を持ったもんだから、和哉とはすっかり疎遠になってたらしいのよ。ところが結婚したとたん『おまえは魚住家の長男だから』って、お義父さんの方から急に法事なんかに呼び出されるようになっちゃったんだよ?まぁ、旧い土地柄、そういうものなのかもしれないけれど」
「げっ、それって智くんの母方の伯父さんのことですよね?……やだなぁ、うちも呼ばれるようになるのかなぁ?」
稍の顔がとたんに曇る。
「それでなくても、なるべくお義母さんには会わないようにしてるのにぃー」
——結婚って、ずいぶん厄介ねぇ。fairy taleのように、すんなりHappily ever afterってわけにはいかないみたいだわ。
と、麻琴が思ったのもつかの間——
「……でも、それだけじゃないよね?」
美咲が上目遣いでじーっと麻琴を見た。
「え、えっと……」
麻琴は思わずたじろぐ。心の奥を見透かされるような不思議な瞳だった。
「麻琴ちゃんってさ、もしかして……男の人から追いかけられたら、冷めちゃうタイプなんじゃないの?」
「ややちゃんみたいに、智史くんに押し捲られて流されちゃったタイプとは真逆だね」
美咲がふふっ、と笑った。
「え、なになに?」と稍が美咲を見る。
「こればっかりは自分ではどうしようもないだろうし、だからといって『妥協』した方がいい、なんて言うつもりもないけれど……」
——うっわぁ、なんだか見透かされてる。さすが、酸いも甘いも経験したバツイチだけあるわ。
確かに、魚住や青山にあんなに「執着」したのも、彼らが自分に振り向かなかったから、というのがあったのかもしれない。
——「追いかけられる」なんて、今までになかったから……
「でも、これだけは言っておくね」
そう言って、美咲は「聖母」のようにふっくらと微笑んだ。
「……後悔だけはしないようにね」
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