真実(まこと)の愛

佐倉 蘭

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Chapter 3

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「え、えっと……そういうのは社内メールで通知していただかないと」

——いきなり、こんなオフィスの「往来」で言われても……

   しかも、松波のパリコレのモデルのような風貌は、かなり目立つのだ。

すでに、
「あの人、MD課の渡辺さんよね?」
「一緒にいる超イケメンだれ?」
「うそっ、カッコいいー!芸能人みたい♡」
「白衣ってことは……まさか、新しく赴任した産業医の医師せんせい⁉︎」
「独身かなぁ?」
「えーっ、結婚してなくても彼女いるっしょ?」
と、かなりざわついていた。

   社内きってのイケメンの両巨頭、魚住部長も青山部長もすでに既婚者の愛妻家ときている。
   そして、彼らほどのイケメンではないが「飄々としているところが何気なくカッコいい」とダークホース的に人気な守永課長も既婚者だ。

——課長がバツイチになった「経緯」をみんなは知らないからだわ。

   同じチームの上林と紗英にはチクってしまったが、彼らは口が堅いらしく社内には広まってなかった。

   さらに、唯一の独身イケメンだった山口やまぐち 悠斗ゆうとは大阪支社に転勤になってしまい、(株)ステーショナリーネットの女子社員たちには出社してもなんのハリも潤いもなかった。

「あ、ごめん、ごめん。……じゃあ、医務室に来て」

   松波はまったく悪びれることなく言った。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   松波に通されて麻琴は医務室へ入る。

   医師の使うデスクやキャビネットはもちろん、気分の悪くなった社員がやすむベッドまで、もちろん自社製品である。

   麻琴はリクライニングになる診療用のチェアに促された。
   よく欧米の映画やドラマで登場人物がカウンセリングを受ける際に身を委ねるチェアのようだ。実際に腰かけると、心までほぐされそうになるほどの座り心地の良さだ。

——こんなの、うちで扱ってたっけ?

「このチェアだけは社長に言って、アメリカの専門業者のものを取り寄せてもらったんだよ」

   顔の強張こわばりがとれてリラックスした表情になった麻琴を見て、松波が「してやったり」とニヤッと笑う。

「それで、これが厚生労働省の『職業性ストレス簡易調査票』を元にして、僕なりに考えて作ってみたストレスチェックの質問シートなんだけどね」

   麻琴は差し出されたタブレットを受け取る。

「どうせ入力しなければならないんだったらさ、このシートを印字せずにこのまま社内メールで送って、それぞれの社員には直接入力したあと送り返してもらおうと思ってね。事務の人たちの手を煩わすこともなくて、一石二鳥だと思わない?」

——なるほど。でも、集計のために「紙」から入力するはずだった総務の女子社員は、その「仕事」がなくなって歯ぎしりするだろうなぁ。

「……で、どうだろう?麻琴さんの意見を聞かせてよ?」

   麻琴はタブレットの質問シートに目を走らせた。

「すごく合理的でいいと思います。ただ……」

「なに?なんでも言って?」と、穏やかな目で松波が麻琴を見る。

「どうせなら、情報システム部でちゃんとしたフォーマットをつくってもらうべきじゃないでしょうか。社員からの回答を自動で集計できるようにするほかに、人事部の社員データに直結するような仕様システムにしてもらったらどうでしょう?人事部にとっても、人事考査のときに考慮しやすくなって重宝すると思うんですが」

   松波の目が一瞬、見開く。

「なるほどね……」

   そして次の瞬間、ぱぁーっと明るい笑顔になる。まるで……太陽だ。

「ありがとう。さすが、麻琴さんだ」

   麻琴はその笑顔をまともに喰らってしまった。

——うっわぁ!太陽を直視してしまったわ!

   あわてて目を伏せて「保護」する。

「えっと……情報システム部の部長は青山さんです。きっと、わたしたち社員にとっても使いやすいフォーマットにしてくれるはずですよ」

——たぶん、ややちゃんが担当することになるだろうけれども。

   麻琴は稍がデータベースのソフトを使えることを思い出していた。

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