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Chapter 3
①
しおりを挟む——あぁーあ、今日もまた残業だなぁ。
夕方になる今まで、aut◯CADとにらめっこしながらもまったく捗らない。
麻琴は、まるで小洒落たカフェにでもあるテーブルのようなデスクに頬杖をついて、ため息を吐いた。
「あ、守永課長、おかえりなさい」
近くのデスクにいる岡本 紗英が声をかける。守永が客先から戻ってきたようだ。
「あ、守永課長、お疲れっす」
離れたデスクでいた上林 俊太も労う。
ちなみに、すべて自社製品の什器であるこのオフィスの、どこに陣取っても自由だ。
なのに、客先から帰ってきた守永が、よりによって麻琴の隣の席に、どかっ、と座る。
「……守永課長、ほかにも空いてるスペースありますよね?」
麻琴は忌々しげに守永を横目で見た。
「麻琴はおれに対して『おかえり』も『おつかれ』もないのかよ?」
守永はニヤッと笑って、ト◯ミのブリーフケースをデスクの上に、どん、っと置く。
「見事に、煮詰まってるなぁ」
麻琴のaut◯CADを覗き込んで、守永が唸った。
——課長、近いったら!セクハラよっ!
麻琴はデスクチェアのキャスターを体重移動によって横へ転がして、身体をずらす。
「一発目は渡辺さんのプランで行く、って決定事項だったですよね?」
遠くから上林の声が飛んできた。
「だったら、せめてコンセプトくらい出してもらわないと、こっちも動きようがないんっすけどね」
「ちょ、ちょっと、上林さん……」
紗英があわてて止めようとする。
「なんだよ、岡本。君だって、商品のコンセプトすらないのに、販促のプランなんか練れないだろ?」
確かに「正論」なので、麻琴はぐうの音も出ない。
「まぁまぁ、落ち着け、上林。まだ、このMD課自体が発足したばかりで、どのチームも手探り状態なんだ。プレゼン会議までまだ時間もあるし、そう焦る必要はないぞ」
守永がそう言うと、上林もしぶしぶ矛を収めた。
——ううっ、やりづらい。これでは、だれがチームリーダーかわからないわ。
そもそも、守永はサブリーダーの前に「課長」であった。やはり、経験に裏打ちされた「貫禄」が違う。
——それでも、このチームのリーダーは自分だ。
「商品のコンセプトすら、まだ提示できなくて申し訳ないと思っているわ。でも、最初だからこそ、きちんとしたものをプレゼン会議にぶつけて、ぜひとも商品化をもぎ取りたいの」
「あたしも最初が肝心だと思います!」
紗英は同調してくれた。
「とりあえずさ、麻琴が今どういう方向で考えてるのかだけでも教えてくれよ。もしかしたら、今の時点でも、それぞれができることがあるかもしれないからさ」
守永の言葉に、麻琴は逡巡しながら答える。
「そうですね……やはり、『北欧』は外したくないですね」
「ターゲットの購買層は?」
「二〇代から三〇代の働く女性です」
上林が「ありきたりだな」という顔になる。
「ロハスにとってのメインターゲットですよ?」
紗英が上林をじろっと見る。
「一人暮らしの女性が、うちに帰ってよかったな、と思えるようなインテリアを考えています」
麻琴はまだ頭の中でおぼろげながら思い描いているイメージを口にした。
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