真実(まこと)の愛

佐倉 蘭

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Chapter 3

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——あぁーあ、今日もまた残業だなぁ。

   夕方になる今まで、aut◯CADとにらめっこしながらもまったく捗らない。
   麻琴は、まるで小洒落たカフェにでもあるテーブルのようなデスクに頬杖をついて、ため息を吐いた。

「あ、守永課長、おかえりなさい」
   近くのデスクにいる岡本 紗英が声をかける。守永が客先から戻ってきたようだ。

「あ、守永課長、お疲れっす」
   離れたデスクでいた上林かんばやし 俊太もねぎらう。

   ちなみに、すべて自社製品の什器であるこのオフィスの、どこに陣取っても自由だ。
   なのに、客先から帰ってきた守永が、よりによって麻琴の隣の席に、どかっ、と座る。

「……守永課長、ほかにも空いてるスペースありますよね?」
   麻琴は忌々しげに守永を横目で見た。

「麻琴はおれに対して『おかえり』も『おつかれ』もないのかよ?」
   守永はニヤッと笑って、ト◯ミのブリーフケースをデスクの上に、どん、っと置く。

「見事に、煮詰まってるなぁ」
   麻琴のaut◯CADを覗き込んで、守永が唸った。

——課長、近いったら!セクハラよっ!

   麻琴はデスクチェアのキャスターを体重移動によって横へ転がして、身体からだをずらす。

「一発目は渡辺さんのプランで行く、って決定事項だったですよね?」

   遠くから上林の声が飛んできた。

「だったら、せめてコンセプトくらい出してもらわないと、こっちも動きようがないんっすけどね」

「ちょ、ちょっと、上林さん……」
   紗英があわてて止めようとする。

「なんだよ、岡本。君だって、商品のコンセプトすらないのに、販促のプランなんか練れないだろ?」

   確かに「正論」なので、麻琴はぐうの音も出ない。

「まぁまぁ、落ち着け、上林。まだ、このMD課自体が発足したばかりで、どのチームも手探り状態なんだ。プレゼン会議までまだ時間もあるし、そう焦る必要はないぞ」

   守永がそう言うと、上林もしぶしぶ矛を収めた。

——ううっ、やりづらい。これでは、だれがチームリーダーかわからないわ。

   そもそも、守永はサブリーダーの前に「課長」であった。やはり、経験に裏打ちされた「貫禄」が違う。

——それでも、このチームのリーダーは自分だ。

「商品のコンセプトすら、まだ提示できなくて申し訳ないと思っているわ。でも、最初だからこそ、きちんとしたものをプレゼン会議にぶつけて、ぜひとも商品化をもぎ取りたいの」

「あたしも最初が肝心だと思います!」
   紗英は同調してくれた。

「とりあえずさ、麻琴が今どういう方向で考えてるのかだけでも教えてくれよ。もしかしたら、今の時点でも、それぞれができることがあるかもしれないからさ」

   守永の言葉に、麻琴は逡巡しながら答える。

「そうですね……やはり、『北欧』は外したくないですね」

「ターゲットの購買層は?」

「二〇代から三〇代の働く女性です」

   上林が「ありきたりだな」という顔になる。

ロハスうちにとってのメインターゲットですよ?」
   紗英が上林をじろっと見る。

「一人暮らしの女性が、うちに帰ってよかったな、と思えるようなインテリアを考えています」

   麻琴はまだ頭の中でおぼろげながら思い描いているイメージを口にした。

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