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Chapter 2
④
しおりを挟む麻琴はそう言われて思わず肩を竦めた。
どうやら「現実逃避」してしまったのはバレバレみたいだ。
「あの……松波先生……わたし……」
麻琴が言いかけると、
「Sorry.」
松波から遮られた。
「“I’ve cared about you indeed,but…〈確かにあなたのことは大事には思ってるけど、でも…〉”っていう返事だったら……まだ、きみの口からは聞きたくないんだ」
松波が麻琴をぐっ、と見る。半端ない目力だった。
「それに『昇進して働く環境が変わったからしばらくは仕事に専念したい』ときみが言いたいのであれば、それは僕の想定内だよ」
——うっ。
「ちょうど間のいいことに、非常勤とはいえ僕はきみの会社の産業医になったんだ。きみの仕事についても状況が把握しやすくなったし、今まで以上に会えるようになるのは間違いないよ。だから、僕たちはきっと、もっとずっと親密な関係になれるはずだと、期待してるんだけどね」
——ううっ。
「だから、そういうことを『理由』にはしないでよ?」
——うううっ、図星だわ。
まさしく、麻琴はそれを「理由」にして断ろうとしていた。
——まぁ、わたしは彼のようなBBC Englishではないから“I care about you so much,but…〈あなたのことはすっごく大事には思ってるわ、でも…〉”って言い方にはなるとは思うけど。
麻琴はそんなふうにまた意識を外に飛ばして、「現実逃避」してしまいそうになる。
「だからさ、もうしばらく僕がきみを待つことを許してくれないか?」
しかしそんな思いも、怖いくらい真剣に自分を見つめる松波の視線を感じると、たちまちのうちに「現実」に引き戻される。
「……と言っても、来年で四〇になるからねぇ。別に、三〇歳寸前でロンドンへ留学して『婚期』ってヤツに乗り遅れたことを後悔してるわけじゃないけどね。でも、できればもうそろそろ、生涯をともにする相手と……とは思ってるんだよね」
松波はタリ◯ンドの縁を、節のしっかりした長い中指ですーっとなぞる。
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——そうよ。なにも、わたしなど相手にしなくても、生まれ育った「環境」の似通った人と、生涯をともにした方が絶対にいい。
「まさか……僕の家のことを気にしてない?」
麻琴はボ◯モアのグラスに目を落とす。
「麻琴さんには、ちゃんと話したよね?僕が『あの家』を継ぐことは絶対にない、って。ロンドンへ逃げるようにして渡ったのも、そのためだって」
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