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Chapter 2
②
しおりを挟む「松波先生こそ、うちの会社の非常勤の産業医をお引き受けになったんですってね」
麻琴が大輪の花が咲き誇る笑顔になって、
「ようこそ。わがステーショナリーネットへ」
ヒュ◯ガルデン・ホワイトのビアグラスを目の前で優雅に持ち上げた。
「えっ、なんで知ってるの?」
松波が、いたずらのバレた子どもみたいな顔になる。
「せっかく……サプライズにして驚かせようと思ったのに」
「青山さんの奥さま、ややちゃんからの情報です」
ふふっ、と笑った麻琴の方が、いたずらっ子の顔になる。
「……そうか、青山さんからの『紹介』だったからねぇ。仕方ない、か」
『うちにもそろそろ産業医が要るでしょう?おもしろい医者がいますよ』
青山がそう言って、松波を社長の葛城 謙二に紹介したのが、そもそもの始まりだった。
すると、社長と松波が同じ中高一貫男子校の先輩・後輩だったことが判明した。いわゆる「御三家」の一角を占める超名門校だ。
それからは、トントン拍子に話が進んで、あれよあれよという間に決まったのは言うまでもない。
「……そろそろ、次へ移られますか?」
チャームのミックスナッツを差し出した杉山が、二人のビアグラスを見て尋ねる。
「そうだな」
「ええ、お願いするわ」
杉山が「かしこまりました」と応じて、ボトルが並んだ後ろの棚へ振り返った。
「……でも『サプライズ』はもう一つあるんだ」
松波がいたずらっ子の顔に復活させた。
それから、隣のスツールに置いていたホワイトハウスコ◯クスのブライドルレザーのダレスバッグから、リボンのかかった小さな箱を取り出した。
「はい。麻琴さんに、昇進のお祝い」
磨き込まれた無垢のアメリカンブラックチェリーのカウンターの上に置く。
麻琴は渡された小さな箱を手に取り、サテンのリボンを、するりと解いた。
そして、箱をぱかりと開ける。
すると——中からキラキラ輝く指輪が現れた。
「あ、ピンキーリングっていうの?小指にする指輪ね。そのくらいのものだったら、プレゼントしても別に重たくないでしょ?」
松波はこともなげに言うが……
——いやいやいや。
「松波先生、受け取れません!」
麻琴はあわててカウンターに箱を置き、アメリカンブラックチェリーの木目に沿って松波の方へ押し戻した。
「……気に入らなかったかな?きみの誕生石のオパールなんだけど」
松波がカウンターに頬杖をつき、灰緑色の瞳を上目遣い気味にさせて麻琴を見る。
「麻琴さん、この前さ、
『しあわせいっぱいのややちゃんが誕生石のピンキーリングをしていて、ラッキーアイテムだ、って言ってたからわたしも買おうかな』
って、話してたよね?」
——確かに、この前先生とここで呑んだときに、めずらしくちょっと酔ってしまって、そんなことを口走ったわ。
それだけではなかった。
愛する人を手に入れて、キラキラと輝く稍がうらやましい、と。
自分も早く、彼女のように輝きたい、と。
仕事も大事だけれども、オンナとしてのしあわせもほしいのだ、と……
——うっわぁ、こっ恥ずかしいっ!
「それとね……麻琴さん、そろそろ僕で手を打たない?」
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