真実(まこと)の愛

佐倉 蘭

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Chapter 1

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   今までの麻琴は製品プロダクトデザイナーとして、企画として出された商品のデザインだけをやっていればよかった。

   ここ三年ほど所属していた文具部門のMD課・青山チームでは、チームリーダーの青山あおやま 智史さとふみが考えた企画を、彼の意を汲んでひたすら「かたち」にしてきた。

   実は青山は商品企画なんて畑違いもいいところで「本業」はシステム管理だ。

   この度の人事異動で彼もまたMD課を去り、課から部に昇格した情報システム部の初代部長に着任した。
   課長職をすっ飛ばしての部長就任は、魚住部長よりももっと異例の大出世だ。しかも最年少である。

   そんな彼ではあるが、MD課では自身が学生時代に勉強しているときに常々思っていた「こんなふうになっていた方が便利じゃないのか?」というものを次々と企画し、商品化させ、さらには定番化させていった。
   もちろん、課内ではダントツの売り上げトップだった。

   そして、その青山と麻琴は、ここ二年ほど「オトナの関係」にあった。

   いわゆる——セフレだ。


   だが、それも先日、いきなり終焉を迎えた。

   いつものようにふらり、と麻琴の部屋を訪れた青山は、いつものように彼女の手料理を淡々と食したあと——麻琴のつくる料理は小料理屋を開けるほどの腕前だというのに——きっぱりと告げた。

『結婚する女がいるから、そいつのためにも、おまえとの今までの不毛な関係はもうやめる』

   そういえば、青山が自分の部屋に来るのはひさしぶりだということに、麻琴はようやく気がついた。
   そして、もうしばらく彼に抱かれていなかった、ということも……

   仕事が忙しいからだとばかり思っていたのだが、そうではなかったのだ。

   しかし、こんなひどい扱いを受けているにもかかわらず、そのとき麻琴が思ったのは……

——この男がやっぱり好きだ。愛している。


   麻琴は青山の前では割り切ってる振りをして、カラダの関係を結んでいた。

——こんな『不毛な関係』であっても、これだけ「努力」を続けていれば……

   いつか「やっばり麻琴だったよ」と、青山が自分を選んでくれるんじゃないか、と思っていた。

『……智史、その「結婚する女」って、だれなの?』

   今年の十月末で三十四歳になる麻琴より、青山は一つ上だというにもかかわらず、今まで彼に結婚願望を感じたことは一度もない。
   なので、こんな急な話は到底信じられなかった。

『つい最近再会した、幼なじみだ』

   その瞬間、魚住のときのことが、麻琴の脳裏にフラッシュバックした。
   魚住が結婚した相手も、小学校のときの同級生で「幼なじみ」だったからだ。

——また、あんなつらい思いをするくらいなら……

   しかも、魚住とはついぞなかったカラダの関係が、青山とはあった。二年も、だ。

   普段のクールさとは人が変わったように激しくなる、あのベッドでの彼を「はい、そうですか」と手放すわけにはいかない。

   青山がかつて、手当たり次第に遊んでいた種類の男だということは、なんとなく気づいていた。
   決して肉欲に溺れることなく、目の前のオンナが悦ぶ「ツボ」を冷静に見極め、あとはただひたすらそこを攻め立てて陥落させる彼のセックスは、まるでゲームを攻略しているかのようだった。一朝一夕に身につく巧みさではなかった。

   麻琴とて、青山と出会う前はいろいろあったからわかるのだ。魚住に失恋した直後のことだ。

   そんなある意味「似た者同士」の自分たちは、かなり「相性」が良かったと思う。それを証拠に、麻琴とこういう関係になった彼がもうほかでは遊ばなくなったようなのだ。

   だからこそ……「期待」していた。

——なのに、ほかのオンナに取って代わられるなんて……

   それも——そのひとを「妻」にするだなんて。

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