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الفصل ٤「CEOからまさかの…?」
③
しおりを挟む「That's not much. I feel sorry for her.」
〈それはあんまりですよ。彼女が気の毒です〉
ムフィードさんが、あたしにもマーリク氏にも理解できる英語で口添えしてくれる。
——そうよ、そうよ!そのとおりよっ‼︎
我が長澤不動産が、この地域での社運を掛けた大型プロジェクトって言ってもいいくらいなんだからっ!
そんなのが取引中止になっちゃったら、東京に戻されるところか、会社にすらいられなくなるじゃん‼︎
「Mr.Malik, if you’d like to get married to her,you should present her “Mahr” properly.」
〈ミスター・マーリク、もし彼女との結婚を望むのであれば、きちんと「マフル」を提示した方がいいです〉
——「マフル」って、なに?
「Exactly.」
〈確かにな〉
——だから、なに?
「マミコさん、『マフル』は結婚のとき、夫が妻に払うお金です」
怪訝な顔をするあたしに、ムフィードさんが日本語で教えてくれる。
——へっ?いきなりお金の話?
どんな事情かはわからないままだけど……一応あたし、今「プロポーズ」されてるんだよね? 仕事の話をされてるんじゃないよね?
だけど、こんなにお国柄が違うと、あちらの常識こちらの非常識、だからなぁ……
とりあえず根気強く話を合わせて、少しずつ「事情」を聞き出していくしかないか……
「ってことは……『マフル』っていうのは、結納金みたいなものなんですね?」
あたしは気を取り直して、ムフィードさんに尋ねた。
「『ユイノーキン」は……結婚するときの『前払い』や終わるときの『後払い』ですか?」
——えっ、『結婚するとき』はともかく『終わるとき』って……離婚のことだよね?
確かに『前払い』の方は結納金だけれども、『後払い』の方は……「慰謝料」じゃん⁉︎
「結婚する前、お互いの父親がマフル決めて契約書作ります」
「ええっ、この国では結婚する際に、離婚したときの慰謝料の金額まで契約書を作って決めちゃうのっ⁉︎しかも、本人同士じゃなくて、父親がっ⁉︎」
あたしは思わず、素っ頓狂な声で叫んだ。
——それって、なんだか最初から離婚するのが前提みたいな結婚じゃない?
「『この国』と言うか……イスラム教徒です」
ムフィードさんはそう答えて肩をすくめた。
「ほかにも契約書で決めますが……何番目の妻になるかも決めます」
——はぁ?
「ムスリムの男は四人の妻、持てますから」
ああっ、そうだった!「イスラム教あるある」だ‼︎
「でも、四人の妻持つの、昔の話です。今、みんな妻一人だけです。なぜなら、妻四人同じに扱うの、とてもたいへんです。妻四人の契約書作ってお金払うの、とてもとてもたいへんです」
——でしょうねぇ……
それでなくても「結納金」と「慰謝料」の両方だもんね。しかも、複数の「wives」をみんな平等に扱わなきゃなんないなんて、たった一人の「husband」は毎日針の筵であろう。
——「ハーレム」なんて所詮、思い描いて夢見てるうちが花なのよ。
あたしがうんうんと肯いているうちに、ムフィードさんはあわててマーリク氏に翻訳して伝えている。
マーリク氏はまったく日本語がわからないのか、すっかり蚊帳の外状態になっていた。
そして、世界中の苦虫を噛み潰して殲滅させそうな勢いの顔で、あたしたちを睨みつけていた。プライドがチョモランマ級に高いのか、絶対に赦せないのだと見える。
——こっ、怖っ!怖いよー。
でも……なんだかめんどくさそうな超絶イケメンだなぁ……
「Lulu,would you like to be my third wife?」
〈ルールゥ、私の三番目の妻になりたくないか?〉
——さ、さ、三番目……っ⁉︎ しかも、言い方……!
”Would you like some coffee?” みたいに訊かないでよっ⁉︎
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