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الفصل ٢「アブダビに到着!」
③
しおりを挟むイスラム教徒らしく、その顔の下半分はしっかりとヒゲで覆われてはいたが、なかなかのイケメンだ。イスラム教の指針「ハディース」では、ムスリム男性にとって「ヒゲ」は「大人の男」である証なのだそうだ。
このカフェでは今、東アジア系の女性はあたししかいない。だから、彼の方は間違えようがなかった。
「Yes,l’m Mamiko Miura. You’re Mr. Mufiid,right?」
〈そうです。ムフィードさんですよね〉
あたしは立ち上がった。
「It’s very nice to meet you,Mr.Mufiid.」
〈お会いできてうれしいです、ムフィードさん〉
そう言って右手を差し出すと、彼も右手を差し出した。
「Ms.Miura,it’s very nice to meet you too.」
〈三浦さん、こちらこそお会いできてうれしいです〉
あたしたちは握手した。
「Can you call me Mufiid? You don’t have to call me Mr. Mufiid.……あ、ムフィードと呼んでくれませんか?『Mr.』はつけないでいいです。わたし、今、日本語勉強中です」
「えっ、そうなんですね」
それは、ありがたい。やっぱりネイティブスピーカーではないから「変換」するのが面倒だ。
「わたし日本語の練習します。だから、日本語お願いします」
——この人、これを機会にアラビア語と英語以外にも日本語を身につけようとしているんだ。
語学が格段に上達する人って、こんなふうに自分のレベル関係なく、トライ&エラーで貪欲に「話す」人なんだよなぁ……
「わかりました、ムフィードさん。……では、あたしのことも『マミコ』でお願いしますね」
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
そして、あたしはムフィードさんの車でオフィスへ向かうことになった。彼の運転する車は、アメリカ・テ◯ラ社のモデルXだ。
実は、これから向かう脱炭素都市を目指すマスダール・シティは、ガソリン車はもちろんハイブリッド車ですら一切禁止のため、電気自動車でしか乗り入れできないのだ。
とは言え、シティ内に敷かれた軌道上を「個人用高速輸送機関」が「市民の足」として無人運転で走行してくれているから問題はない。ただ、「高速」と言っても時速四十キロメートルほどらしいが……
一台につき定員二名のPRTは、タッチパネルに行き先を入力すると、そこまで自動運転で連れて行ってくれるのだそうだ。昼間だったら、女性の一人歩きでも大丈夫みたいだから、じゅうぶん「あたしの足」にもなってくれるだろう。
「……ところで、ムフィードさん」
あたしは気になっていたことを早速尋ねてみた。
「イスラム教徒の男性は、まだまだかなり封建的ですよね?」
「『ホーケンテキ』?」
——あ、彼にとっては難解な単語だったか……
「えーっと、女の人が家から出て外で働くのはイヤじゃないんですか?」
「Oh,I see. I got it.」
〈あぁ、なるほど。わかりました〉
ムフィードさんはハンドルを切りながら答えた。ちなみに、UAEは英国の保護国であったとはいえ、車は左ハンドル・右側通行の国である。
「アブダビとドバイ、働く女の人増えてます。会社で働くはまだ外国の会社多いですが、アブダビ三十三人大臣いますが、九人女の人です」
——ええっ、国内企業より外資系企業で働く女性が多いのはわかるとして、九人も女性大臣がいるのっ?日本なんかより、全然進んでるじゃん……
ムスリムの国だから、あたしが女性であるということだけで仕事に支障をきたすことがあったらマズいなぁ、と気になっていたのだ。
あたしはホッと胸を撫で下ろした。
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