きみの左手薬指に 〜きみの夫になってあげます〜

佐倉 蘭

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Book 12

「執(しつ)恋」②

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「……櫻子があんなにエッチだったとは、思わなかったなぁー。まさか、自分からカラダを押しつけてきて、もっともっとって『おねだり』するなんてさ。まるで、娼婦みたいに色っぽかったよ。昼間の清楚なイメージとは真逆だったね。……もちろん、僕は大歓迎だけどね」

 しみじみと語るシンちゃんのありえない言葉に、わたしは危うくおみおつけを噴き出すところだった。
「ちょ…ちょっと、朝ごはんのときに言うことじゃないでしょっ!」
 白ごはんに豆腐とネギと油揚げのおみおつけ、そして納豆に甘くないだし巻き玉子という、これぞ「正統派ニッポンの朝ごはん」を前にして、なんてこと言うかなっ!?

  ——まぁ、つい先刻さっきまで「あんなにエッチ」なことをさんざんしていたおかげで、もうとても「朝ごはん」とは言えない時刻だけれども。

「ごめん、ごめん……櫻子が僕のものになったことが、うれしくてね」
 そう言うと、シンちゃんの顔が近づいてきて、わたしのくちびるに、ちゅーっとキスをした。

  ——今までは、軽くちゅっ、って感じだったのに。
 わたしは手にしたおみおつけのお椀を落っことしそうになる。
「もおっ、シンちゃんっ!」

 昨夜までは、わたしたちはダイニングテーブルに対面で座っていた。
 今日になって、隣同士で座りたい、とシンちゃんが言いだしたのは、こういうことをしたかったためだとわかった。


 ごはんを食べ終え、二人で片付けたあと、
「……じゃあ、櫻子、行こうか」
 シンちゃんが、陽だまりのように微笑みながら言った。

 わたしは、こくり、と肯く。
 警察に被害届を出しに行くのだ。

 わたしはシンちゃんのほっぺたに、シンちゃんはわたしのくちびるに、お互いに「行ってらっしゃいのチュウ」を済ませると、わたしたちは手をつないで玄関を出た。
 ——うーん、なんだか「二度手間」な気がするのはわたしだけだろうか?シンちゃんのチュウだけで事足りてるのではないか?


 門扉の向こうには、世間話で花を咲かせまくってお花畑の中にいる山田のおばちゃんと中村のおばちゃんがいた。

 わたしたちのつながった手をガン見しながら、
「「あらあら、新婚さんはいいやねぇ」」
と、声を合わせた。

 でも、もう後ろめたい気持ちに脅かされることはない。
 だって、わたしたちは、
 ——心もカラダも通い合わせたのだから。

「これから、二人で警察に被害届を出しに行ってきます」
 シンちゃんがまるで「ちょっとスーパーに買い物に行ってきます」とでもいうくらい気軽に言った。

「そうだよぅ、それがいいよ。櫻子ちゃん、あんなに怖い目見たんだもん」
 中村のおばちゃんがいたわってくれる。

「櫻子は昨日で図書館を辞職したので、これから日中は一人で家にいることになります。僕が仕事でいない間、櫻子のことをよろしくお願いします」
 シンちゃんが打って変わって神妙な面持おももちで、頭を下げる。

「やだねぇ、なに言ってんだよぅ」
 山田のおばちゃんが水くさいとばかりに、手をぶんぶん振る。
「櫻子ちゃんは娘も同然だかんね。シンちゃんよりも、あたしらの方がずぅーっと付き合いは長いんだよ」

 山田のおばちゃんも中村のおばちゃんも、ギャハハハハ…と豪快に笑った。

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