17 / 63
Book 6
「葛城は住むことにした」⑤
しおりを挟むそのあと、華丸のデパートを二人で出た。
すると、葛城さんはなんと、わたしを家まで送る、と言い出した。
うちの近くに出没するという「不審者」を警戒してのことだ。
「えっ、でも、うちはすっごく不便なとこなんですっ。地元では陸の孤島って呼ばれてるくらい、最寄り駅が近くになくて」
わたしの家が埼玉と千葉に挟まれた二十三区の東端である「立地」を言うと、
「えっ、櫻子さんのおうち、駅から遠いの?」
葛城さんの整った眉がぎゅっ、と寄った。
「じゃあ、ますます、きみの身が危険にさらされるじゃないか」
——いやいやいや、そうではなくて。
そして、メトロの駅に行く途中で、なぜか葛城さんは「ちょっと買い物させてくれる?」と言ってド◯キに寄った。
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
結局、うちまで、葛城さんはわたしを送ってくれることになった。
JRの常磐線の駅を降りてからは自転車だ。
葛城さんは、駐輪場でわたしの赤いママチャリのサドルのレバーを引っ張って引き出し、ぐるぐるぐるっと回して、サドルを上げた。
そして、「ほんとは道路交通法違反なんだけどね」といたずらっぽく笑って、
「後ろに乗って。僕が自転車を漕ぐから。あ、櫻子さんの家までの道、教えてね」
わたしのママチャリにまたがった。
それから、わたしたちは、まるで高校生の下校時のように、自転車を二人乗りして家まで帰ってきた。
もうすっかり夜の帳が下りていた。
だからわたしは、ご近所の目を気にすることなく、自転車の荷台に横乗りした。
青春真っただ中のウブな女子高生みたいに俯いて、葛城さんのスーツの上着の端を掴むわたしに、
「……櫻子さん、もっとしっかりと持たないと、振り下ろされちゃうよ?」
自転車を軽快に漕ぐ葛城さんが、前を向いたまま笑って言った。
彼の背中から、直に声が聞こえてきたような気がした。
——ところが。
こんな時間にもかかわらず、お隣の山田のおばちゃんの門扉の前に、裏の中村のおばちゃんがやって来ていたのだ。
いい歳して自転車で二人乗りして帰ってきたわたしたちの姿を見て、門灯に照らされたおばちゃんたちの目が、夜目にもらんらんと光り輝いているのがわかった。
「……あらぁっ、櫻子ちゃんっ、おかえりなさいっ!」
山田のおばちゃんが、ご近所一円に聞こえるんじゃないかと思えるほどの声を張り上げた。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
聖なる乙女は竜騎士を選んだ
鈴元 香奈
恋愛
ルシアは八歳の時に聖なる力があるとわかり、辺境の村から王都の神殿に聖乙女として連れて来られた。
それから十六年、ひたすらこの国のために祈り続ける日々を送っていたが、ようやく力も衰えてきてお役御免となった。
長年聖乙女として務めたルシアに、多額の金品とともに、結婚相手を褒賞として与えられることになった。
望む相手を問われたルシアは、何ものにも囚われることなく自由に大空を舞う竜騎士を望んだ。
しかし、この国には十二人の竜騎士しかおらず、その中でも独身は史上最年少で竜騎士となった弱冠二十歳のカイオだけだった。
歴代最長の期間聖乙女を務めた二十四歳の女性と、彼女より四歳年下の誇り高い竜騎士の物語。
三島 至様主催の『聖夜の騎士企画』に参加させていただきます。
本編完結済みです。
小説家になろうさんにも投稿しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました
七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。
「お前は俺のものだろ?」
次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー!
※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。
※全60話程度で完結の予定です。
※いいね&お気に入り登録励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる