あなたの運命の人に逢わせてあげます

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
37 / 37
きみに指輪をあげたい

Chapter 4 ②〈完〉

しおりを挟む
 
 先日、生まれ育った町の神社で、和哉と美咲が結婚式を挙げた。

 最初、二人きりで挙式するつもりだったが、美咲が実家に帰って、両親に「今度は花嫁衣装を着て、ちゃんと結婚式をする」と報告した。
 すると、突然、母親が堰を切ったように、
『美咲の花嫁姿が見たい!おとうさんが見るなって言うのなら、離婚します!!』
と言いだした。
 離婚されたら困る父親が、とうとう折れた。

 和哉もちゃんと美咲の両親に会って、日本の美しき伝統文化「お嬢さんをください」をやったあと、伝家の宝刀「最敬礼」を存分に発揮した。

 和哉の方も、母親と再婚相手と妹が参列してくれた。実の父親からは祝電が届いた。

 和哉の母と美咲の母は、会うなり、
『あらー、お久しぶり~!元気にしてた?』
と言い合っていた。小学校のPTAの行事以来の再会である。

 家族が参列して二人きりの挙式ではないと知った香里は、「友人代表」として佳祐を引っ張って来てくれた。けれども、香里が、
『あー!これがパワースポットの御神木ねー!?』
とそこら中の木に抱きついてばかりいるので、
『抱きつくならこっちにしろ』
 怒った佳祐が香里を抱き寄せ、神社の境内にもかかわらず、チュッとキスをした。

 香里は『さすが、◯原さん推奨の超パワースポット!もう御利益が!?』と感激した。実は、人前でこういうのを一度やってみたかったのだ。
 佳祐はというと、なんだか子どものようにはしゃいでるわが妻がかわいくて愛おしくて、ついやってしまった。神聖な境内なので、バチが当たらないかと青くなった。


 綿帽子に白無垢姿の美咲は本当に美しかった。一目その姿を見た和哉は、あまりの美しさに息をするのを忘れ、しばらく固まっていたくらいだ。

 美咲の着付けを担当した者も、
『今時、ここまで日本髪が似合う人はいない』
と目を細めた。また、『着物を着慣れてるのか、踏ん張りどころを知ってて、着付ける側との呼吸がぴったり合って着付けしやすかった』とも言っていた。

 美咲は茶道など、特に着物に親しむような趣味はないのだが、成人式や友達の結婚式で着物を着る際に、なぜか着付けの人からよく言われることだ。日本舞踊日舞をやってましたか、とも訊かれる。そういうこともあって、美咲は和装での挙式を選んだ。
 和哉の方も、剣道をやっていたかのように姿勢がいいから、黒紋付の羽織袴姿がよく似合い、まるで江戸時代から抜け出た「サムライ」のようだった。

 拝殿に向かう沿道で、二人の姿を偶然見た人たちは、ため息まじりでうっとりと見つめていた。

 友人を集めてのウェディングパーティの方は、和哉の仕事の都合もあって、来月開かれる。その後、待ちに待った新婚旅行も控えている。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 和哉は自分の左手薬指と、隣で眠る美咲の左手薬指を見た。そこには、挙式で交換したカ◯ティエの結婚指輪「バレリーナ」があった。
 和哉のはシンプルなプラチナで、美咲のはそれにメレダイヤが半周取り巻いている。 優美にカーブしたデザインは、二人の細長い指をさらに長く見せた。

 美咲は結婚しても派遣の仕事を続けているので、変なのが目をつけやしないか気が気ではない。
 ——この結婚指輪が、「魔除け」になればいいのだが。

 しかし、和哉の方もこの結婚指輪の御利益で、突然「好きです!」と告白されることはないだろうな、と思っていたのだが……
  ——甘かった。

 出先から帰社して、自販機前のベンチソファに腰掛け、買ったユニマットのコーヒーを飲んでいたときだ。
 突然——そう、あれはいつも突然やってくるテロのようなものだ。
『魚住さん、ずっと好きでした。そのカ◯ティエの結婚指輪と時計……素敵過ぎて……セクシー過ぎます。……奥さんがいてもいいです』
 総務の、名前もおぼろげな子だった。
『あたしっ……日陰者でもいいですっ!』
  ——そっちがよくても、こっちがよくねぇんだよっ⁉︎
 もちろん、丁重にお断りした。

 そんなふうに美咲が婚約指輪のお返しにくれたカ◯ティエの黒のタンクMCは、すっごく評判がいい。だから、ロ◯ックスのディープシーと交互で使用していた。

 実は、佳祐が和哉のを見て気に入り、色違いで買おうかな、と思っていて、今度のボーナスが出た暁には、晴れて和哉とペアルックになることを、このときの和哉はまだ知らない……


「ようこそ……おれの奥さん」
 和哉は、美咲の指輪にそっとくちびるをつけた。

 安らかな——と言っても、決して死んでるわけではないが——美咲の顔を見つめていたら……さすがに、和哉も眠たくなってきた。

 美咲の顔に自分の顔を寄せて、彼女の柔らかいくちびるに、ちゅっ、と軽くキスをする。初めて美咲にした、小学生の頃のキスみたいだった。

「……おやすみ……『魚住』さん……」





「きみに指輪をあげたい」〈 完 〉

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...