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きみに指輪をあげたい
Chapter 2 ②
しおりを挟む「結婚式するんだったら、指輪がいるわね。最近は神社でも、指輪交換するのよ」
香里がそう言って、カフェラテを飲むために、カップを持ち上げた。そのとき、燦然と輝く左手薬指がさらにキラリと光を放った。そこには、ハリー・◯ィンストンのマイクロパヴェリングの婚約指輪と、フルエタニティの結婚指輪が瞬いていた。
マイクロパヴェリングは真ん中のダイヤモンドの周りを小さなメレダイヤが取り巻いていて、中央のダイヤモンドが実力以上にデカく見える優れモノだ。そして、なにより真ん中と外側のダイヤモンドが共鳴してやたらキラキラ輝くのだ。しかも、アームのところにもメレダイヤが埋め込まれていた。
香里の場合はさらに、婚約指輪の下に重ねづけされた結婚指輪までもが、ダイヤモンドを全周させたものだから、キラキラを通り越してギラギラしていた。
でも、そんな芸能人がつけそうな超豪華な指輪にもかかわらず、香里の指は負けていなかった。その指輪たちは、すっごく彼女に似合っていた。
実は、結婚の際にこの指輪を贈られるのが、香里の夢だった。だが、相手の佳祐は大手の広告代理店に勤めているとは言っても、一介のサラリーマンである。
そこへ香里の親バカ——もとい、香里を常識度外視で愛する大手不動産会社・社長の父親が登場し、結婚式を挙げる一流ホテルや新婚旅行に掛かる費用すべてを負担するから、どうか娘の夢を叶えてやってほしいと、土下座する勢いで頼み込まれた。
——土下座してまで香里をもらいたいのは、おれの方なんですがね。
佳祐は苦笑したが、香里の夢を叶えるためにがんばって購入した。
香里も自分の左手薬指を見た。そこには、普通の人が婚約指輪に費やす六倍くらいのお金が掛かっていた。
結局、父親が出すと言ってた費用も、佳祐がこれから返済したいから、借りたという形にしてほしいと言って聞かなかった。
——ま、披露宴に招待した父の関係先からのご祝儀でずいぶん助かったけど。
香里はこの指輪を見れば、少々のことがあっても大丈夫なような気がする。あくまで「少々」だけど……
彼女への愛はもちろん、佳祐のプライドが——ここにある。
「前の結婚は指輪もらわなかったの?」
すっかり機嫌の直った香里が尋ねる。
結婚式も写真もないようだったので、婚約指輪もないだろうな、という雰囲気が漂っていた。
「婚約指輪はもらったよ」
意に反して、美咲は答えた。
「別にいらなかったんだけど、プロポーズのときに用意してたみたいで」
和哉が、雷に撃たれたようにテーブルに突っ伏した。
——もらっていたか……っ!これは「初めて」にはなれなかったか……っ!
佳祐はその姿をニヤニヤしながら見ている。普段ポーカーフェイスの和哉の一喜一憂を見ているのが、だんだん楽しくなってきた。
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