あなたの運命の人に逢わせてあげます

佐倉 蘭

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あなたの運命の人に逢わせてあげます

Epilogue ②〈完〉

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 また、サッカーがやりたくなってきた。と言っても、十一人同士で対戦する本式はメンバー集めがたいへんだから、一チーム五人以下でできるフットサルでもやってみるか。
 そんなことを思っていたちょうどそのとき、LINEが鳴った。佳祐からの通話だった。

 ——そう言えば、ヤツが【あなたの運命の人に会わせてあげます】サイトを教えてくれたから、美咲に再会できたんだった。


『どうだったんだ?会えたのか⁉︎ 』
 開口一番、友人がスマホの向こうで叫んだ。

 おれは「ああ、会えたよ」と言おうとして、そのまま口ごもった。美咲の離婚が正式に決まってから、きちんと話そうと思い直したからだ。
 美咲はおれに迷惑をかけたくないから、全部自分で始末をつけると言っていた。だが、もし長引くようなら、おれが直接、彼女の夫に会って話をつけようと思っている。

 ——もともと、美咲はおれのものだったのだ。なんとしても、美咲をおれに「返して」もらう。

 美咲とはこれから毎週末に会うことになったが、それが可能なのは、彼女の夫が毎週末、取引先とのゴルフ接待に明け暮れているからだ。宿泊して土日をゴルフ場で過ごすこともちょくちょくあるようだ。
 美咲には言わなかったが、バブル期ならともかく経費大削減のこの時勢に、泊まりで接待ゴルフなんて常識では考えられない。

 ——もしかしたら、彼女の夫にも「相手」がいるのかもしれない。

 おれたちより一回り上だと言っても、四十代のまだまだ働き盛り、男盛りだ。妻とのセックスレスに耐えられるとは思えない。

 ——この辺のところから、攻めていけるかもしれないな……


『……おい、どうしたんだよ、急に黙り込んで』
 スマホの向こうから、佳祐のムッとした声が聞こえてきた。

「ああ、なんでもない。それよりさ……」
 おれは話題を変えて、運動不足解消のためにフットサルをやらないか、と誘った。

   すると、佳祐も日頃の怠惰な生活に危機感を感じていたのか、即座に話に乗ってきた。早速、メンバーを集めてくれると言う。おれたちは二人とも東京を離れてこの地に赴任しているが、佳祐は広告代理店の勤務のため顔が広かった。

「あ、おれ、もうキーパーやらねえからな。できるヤツ見つけといてくれ」
と、おれは頼んだ。
『なんでだよー』
 びっくりした佳祐の声が聞こえてきた。

 身長タッパがあるからと言うのでゴールを守っていたが、本当はドリブルで相手の間を縫って行ったり、シュートを豪快に決めたりしたいと、ずっと思っていたのだ。

 ——不思議だ。美咲がおれの前に現れてから、またどこからか、力が湧き上がってくるようになった。


 佳祐との通話を切ってから、おれはデスクの上のノートPCを立ち上げた。

 まず、ネットショップで超薄のを探し、注文する。今日は美咲に多大なる迷惑をかけてしまった。安全な日だとは言っていたが……男子たるもの、やはり「有事」に備えて、いつも財布の中にでも入れておくべきだった。

 それから、おれを美咲に再会させてくれた——かどうかは、本当のところはわからないが——お気に入り登録してある「あなたの運命の人に会わせてあげます」サイトをクリックした。

 一応、彼女にもそれとなくこのサイトのことを尋ねてみたが、「なに、それ?」と、犬のような邪気のない目で逆に問い返されてしまった。それに、今日美咲の帰り際にお互いのLINEのIDやメルアドを教え合うまで、彼女はおれのをまったく知らなかった。
 だから、手がかりは——あのサイトだけだ。

 だが、しかし——

【Explorerではこのページを表示できません】という表示が、画面に出てきた。

 この時間帯は込むので重たいのかな、と思ってもう一度、「お気に入り」に登録したサイトをクリックした。だが、また同じ表示が出た。

 今度は佳祐から聞いたサイトのアドレスを直接入力してクリックした。しかし、結果は同じだった。

 そして、その後、おれがそのサイトを見ることは二度となかった。





「あなたの運命の人に逢わせてあげます」〈 完 〉

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