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あなたの運命の人に逢わせてあげます

Chapter 9 ②

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「……魚住くんには……奥さん、いないの?」
 美咲はおれを見上げて逆に質問した。その目には緊張の色が見てとれた。

 おれはこっくり肯いた。

「でも……つき合ってる人はいるんでしょ?」
 美咲はさらに質問を重ねた。

 おれは首を振った。

 実は会社の中に、バレンタインデーやクリスマスや七月のおれの誕生日などにプレゼントをくれる女の子がいて、お礼がてら遊びに行ったりするくらいはしていた。向こうがこちらの一言を待っているのはわかりきっていたが、社内の女の子に手を出すと後々面倒なことになるので、もう少しおれの気持ちが固まるまでは、と自重していたのだ。

「魚住くん、昔は、あんなにモテてたのにね」
 美咲がくすっと笑った。
「あたし、あの頃、一生分のやきもちを焼かされたんだよ」
 緊張が解けて、ホッとしたような表情だった。

 ——自分は旦那がいるくせにいい気なもんだ。
 おれはムッとした顔で、美咲の広い額をぴんっと指で弾いた。
 ——おれはたった今、おまえの旦那に一生分のやきもちを焼いているんだぜ。

「美咲、おれの質問に答えろよ」

 美咲はおれをまっすぐに見つめた。
「……死ぬほど……好きよ……ずーっと昔から……」

 おれはたまらず、腕の中の美咲をぎゅーっと力いっぱい抱きしめた。
「……だったら、おまえ、旦那と別れろ」
 おれは低い声で美咲に命じた。

「だけど、あたし……子どもが……」
 美咲がおずおずとした目でおれを見上げた。

「子どもがいるのか⁉︎」
 声が上擦うわずっていた。
 おれの母親の再婚相手の気持ちが、今、初めて、リアルに実感できた。彼らが結婚したとき、母には中学生のおれという息子がいた。

 ——それでもいい。
 美咲が抱えるすべてのものを、おれも一緒に抱えようと即座に決意した。

 だが、美咲があわてて言った。
「違うの!……あたし……病気のために妊娠しても、子どもが産めないかもしれないんだ……」

 美咲の病気は、今では日常生活にはほとんど支障がないものの、妊娠しにくい上に、たとえ妊娠できたとしても数値をコントロールして出産に臨まなければならないらしい。新卒で入った会社を辞めるくらいなので、もし「不治の病」だと告げられたらどうしようかと思ったが、命に関わるようなものではないと言う。

 ——まぁ、美咲には先刻さっき、かなりなことをしたけど、まったく問題なさそうだったがな。

 彼女の夫はバツイチで、前妻との間に息子と娘がいるので、夫からは殊更に子どもを望まれていないらしい。

「……あたしの小学校の頃の夢ね。……魚住くんのお嫁さんになって……魚住くんの子どもを産むことだったんだよ。……あの頃、まさか自分が母親になれないなんて……夢にも思わなかったなぁ……」
 彼女はおれの腕の中で、うたうように言った。

「産めばいい」
 おれはキッパリ言った。
「おれの子どもを産んで、おれと一緒に子どもを育てたらいい」

 美咲の目が見開いた。
 この人、あたしが今言ったこと、聞いてた⁉︎
 ——と、その目が告げているのが手に取るように解った。

「医学は日々進歩してるんだ。子どもの一人くらい、なんとかなるだろ」
「……呆れた……あたしの病気がどんなかも知らないのに」
 美咲は心底呆れ果てた口調でそう言った。

 だがその直後、突然俯いて肩を震わせ始めた。
 ——感動のあまり泣かせたかな?
 そう思って美咲の顔を覗き込んでみる。

   そう言えば、子どもの頃に彼女の泣き顔を見たことがなかったのに気づいた。

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