あなたの運命の人に逢わせてあげます

佐倉 蘭

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あなたの運命の人に逢わせてあげます

Chapter 2

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 早速、メールの中身をチェックすると、おれの「運命の人に会える」という日時と場所が記されていた。

「……ほんとに来やがった」
 思わず、ノートPCの液晶に向かって感慨深げにつぶやいてしまった。

 だが、考えてみれば、メルアドを登録して申し込んだのだから、メールが来るのは当然のことである。

 さて、この日時に、この場所へ、行くべきか行かざるべきか……
 おれはこの怪しげなサイトに申し込むときよりも、ずっと迷った。

 ——女子中高生ならともかく、大の大人がこんなことを真に受けて「運命の人」に会いに行くなんて、どうかしてるんじゃないか?

 とりあえず、佳祐にLINEで経過を知らせると、すぐにLINEの着信音が鳴った。トークじゃなく、通話の方の音だった。

 おれがスマホの画面をタップして電話に出ると、
『和哉、なっ、ほんとにメール来ただろ⁉︎』 
 スマホの向こうの佳祐の興奮状態の声が、いきなり耳に飛び込んできた。

「PCの方にな。……おまえ、スマホのメルアドは登録してないはずなのにそっちに来たって言ってたけど、やっぱり登録してたんじゃないのか」
 おれは佳祐のでかい声に辟易して、耳からスマホを少し離して言った。

『そんなこと、どうでもいいじゃん。それより、いつだ?いつ会いに行くんだよ?』
 佳祐はおれの言葉をろくに聞かず、じれったそうに訊いてきた。

「うーん、それが行くかどうか迷ってるんだけどさ」
 寝起きの、伸びかけたヒゲでざらついた顎を撫でながら、おれは正直に答えた。

『あ、その日って平日なのか?仕事あるから迷ってるとか。確かに有給取ってまでっていうのはな……』
 佳祐がため息混じりに問う。
「いや、土曜日で休みだけど?」
 おれはこともなげに答えた。

『はぁ⁉︎……おまえ、マジかよ。なにを迷うことがあるんだ?』
 佳祐は絶句した。
 しかし、すぐに気を取り直して、
『行けよ!行かないとおれたちの結婚式に呼ばねえから‼︎ 』
と叫んだ。

 別におまえたちの結婚式に呼ばれなくても、おれは一向に構わない。祝儀を出さなくていい分、むしろ、ありがたいくらいだ。

『あ、もうこんな時間かよ。今日は式場との打ち合わせがあるんだ。とにかく……絶対行けよ!わかったな‼︎ 』
 そう言うや否や、あわただしく佳祐からの通話が切れた。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 おれの企画がほぼ通ったため、上司の指示を仰ぎながらの手直しなどで仕事がまた忙しくなり、瞬く間に「その日」になった。

 そして、「その時間」が近づいてきた。あとは「その場所」へ向かうだけだが、おれにはまだあのサイトに対する胡散臭い気持ちがあった。

「運命の人」自体が存在するということを信じるのはもちろん、その相手に「会わせてくれる」なんて、やっぱりどう考えてもおかしい。
 もしかしたら、佳祐もグルになっておれを引っかけているとか……?

 ——だったら、何のために?

  高校時代に同じサッカー部の佳祐は、チームのために身体からだを張って守る忠実なディフェンダーだった。ゴールキーパーのくせにすぐカッとなって前に出てしまうおれは、こいつのフォローのおかげで何度助けられたかしれやしない。確かにバカでお調子者だが、人を陥れておもしろがるような、そういうヤツじゃ決してない。

 また、このまま行かずにやり過ごしたら、「あれはなんだったんだろう」とずっと謎のままの宙ぶらりんな気持ちだけが残るような気がした。

「……よし、行こう」

 おれは決心した。

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