きみは運命の人

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
16 / 28
きみは運命の人

§ 7 ①

しおりを挟む

   翌朝目覚めると、智史さとふみのスマホに【あなたの運命の相手に逢わせてあげます】サイトから、「運命の人に会える」という日時と場所が記されたメールが届いていた。

   ちなみに和哉同様、智史も使い捨て感覚のWebメールのアドレスしか教えていない。

「……本当ほんまに来やがった……」

   思わず、スマホのディスプレイに向かって感慨深げにつぶやいてしまった。

   だが、考えてみれば、メルアドを登録して申し込んだのだから、メールが来るのは当然のことである。

   そして、智史が、「運命の人に会える」と指定されたのは——

   (株)ステーショナリーネットの創立二〇周年記念パーティだった。


——麻琴が言うには「八木」はパーティへは行く気はない、らしいやないか。

   智史は、くしゃっと前髪を掻き上げ、身体からだ全体からため息を吐き出した。
   このまま、またベッドに身を沈み込ませて、もう一度目覚めたところからリセットしたい気分だ。

   こんなふうに頭を抱える姿は、会社で智史がどんなトラブルに見舞われたとしても、絶対に見られないに違いない。

「ほら、見ろ。……和哉さんが余計なこと言うからや」


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   その日、智史は鉛を心に抱えたような重苦しい気持ちで、創立二〇周年記念パーティがあるわが国を代表する老舗ホテルへ向かった。

   創業記念のパーティは、そのホテルの一番大きな宴会場で催される。

   受付を済ませた智史は、その会場へ一歩足を踏み入れたとたん、ぎらぎらと輝く巨大なシャンデリアに目を射抜かれた。一般庶民とはかけ離れたきらびやかな世界が、そこにはあった。
   こんな機会がなければ一生縁のない場所である。

   大きくて細長いテーブルの上には、すでに銀の器に盛られた美味しそうな料理が所狭しと並んでいた。温かいものは保温されていて、冷たいものは氷に囲まれている。

   また、白木の大きなまな板があるところでは寿司職人が寿司ネタの魚を捌いているし、大きな分厚い鉄板の脇ではコックコートの人が大きな塊のステーキ肉を切り分けていた。

   さらに「うどん・そば」「ラーメン」と暖簾のれんの掛けられた屋台が設置されたコーナーからは、それぞれの出汁だしやスープの香りがこちらまで届いてくる。

   「できたて」を提供する準備が着々と整えられているのがわかる。結婚式に招ばれたときの中途半端な温度の「宴会料理」とはレベル違いな配慮が見てとれた。


   自分のチームで営業を担当している山口の姿があった。周囲を見回して、きょろきょろしている。おおかた、好みのタイプの女の子でも探しているのだろう。

   今日は、社内外の関係者が男女問わず、めかし込んでいるはずだ。

   ドレスコードは特に設定されていなかったが、昼間のパーティということで男性はスーツにポケットチーフ、女性はやはりこのホテルでというのを意識してか、アフタヌーンドレスやカクテルドレスなど華やかに着飾っている者が多い。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。 そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。 真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。 彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。 自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。 じれながらも二人の恋が動き出す──。

処理中です...