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きみは運命の人
§ 1 ②
しおりを挟む美咲とは魚住の妻の名だった。
彼らは、小学校のときに同級生として出逢った。そしてその後魚住が転校して離れ離れになり、時を経て大人になった彼らが再会したとき、美咲はすでに結婚して人妻になっていた。
しかし、それでも諦められなかった魚住が、自分と同棲するために美咲たち夫婦を別居させたあと、その夫に直談判して離婚に同意させたのだ。
——そうまでして手に入れた、愛しい妻だ。
今では三歳になる大和という男の子がいて、家族三人幸せいっぱいの毎日である。
「……『あのこと』ってなんだ?」
魚住がごくっ、と唾を飲んだ。
智史が、ふっ、と冷笑した。いや、本人は普通に微笑んでいるつもりかもしれないが、傍から見れば、そうとしか見えないのだ。
「言え、智史。『あのこと』って……なんだ?」
「ここは会社ですよ。ケジメはつけなければいけませんよ。……和哉さん」
そうは言いながらも、智史も「課長」を下の名で呼んだ。
「ぅるっさいわっ。おまえ『あのこと』ってなんや?早よ、言わんかいっ」
ついには関西弁である。
「そんなん言うたら『脅し』にならへんやないですか。アホですか?」
智史も生まれ故郷の関西弁になった。
「おまえっ、やっぱしおれを脅すつもりやってんなっ!それに、おれに向かって『アホ』って言うたなっ⁉︎」
和哉と智史は会社では上司と部下の関係であるが、実は従兄弟同士だった。
そもそも、智史をこの会社に呼んだのも和哉だ。ほかの社員が気を遣ってやりにくくなると困るので「社内秘」にはしているが。
「……それで、人事のデータ、おれに見せはるんですか?それとも、見せはらへんのですか?」
智史が静かに凄んだ。それは彼の生まれ故郷の神戸にいる「反社会団体」を彷彿とさせた。
「まぁ、この程度のセキュリティだったら、難なく『不正アクセス』できますがね?」
和哉のクールでシャープな顔立ちが、くしゃりと歪んだ。
「……わかったわ。見ろ。こんなことくらいで、おまえを『犯罪者』にしたないからな。その代わり、おれが見せたことは絶対に漏らしたらあかんぞ。ええな?」
とうとう観念して、タブレットを智史に差し出す。
タブレットを受けとった智史は、和哉とよく似た細長い指で下方向へスワイプさせながら、両目は左右に動かしていった。
そして、ある箇所でどちらも、ぴたり、と止まった。
【八木 稍】
——なんや、このへんてこりんな名前は?
それに……「稍」って……
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