1 / 28
きみは運命の人
§ 1 ①
しおりを挟む「……ですから、魚住課長」
青山 智史は目の前にいるMD課の課長である魚住 和哉に対峙して、はっきりと要請した。
「うちのチームは、課内でもぶっちぎりの売り上げを誇っています。なのに、事務サポートを置かないのは理不尽ではありませんか?」
ミーティングルームの窓から差し込む陽光が、鼻筋の通った端整な彼の顔に掛かる、リムレスの眼鏡のレンズに反射して、キラリと光る。
やわらかな暖かい日差しのはずが、一気に冷え切り、いきなり室内の気温が下がったような気がした。
智史は三年前に国内最大手の自動車メーカーであるTOMITAのグループ企業から、文具をメインとした新進気鋭のネット通販会社(株)ステーショナリーネットに転職してきた。
そして、社長が彼に望む情報システム課での仕事を保留してまで、自ら希望して配属されたのが、このMD課である。
一度、モノづくりの「現場」を体験してみたかったからだ。
MD課とは、マーチャンダイジング課の略で、プライベートブランド事業部に属し、商品の企画から開発そして販売促進や営業に至るまで、小規模なチームで行っている。
だから、扱っているのは定番商品よりも、アイディア商品などの少し奇を衒ったものとなるため、もともと商品化されても大量生産されるわけではない。
にもかかわらず、智史が率いる青山チームが繰り出す新商品には、定番化されるものがあるくらいだ。
少数精鋭でほかにはない商品づくりのために、MD課ではそれぞれのチームリーダーが他部署からほしい人材をスカウトしてきて、チームでマーチャンダイザーをするシステムになっている。
智史が選抜した個性豊かなメンバーたちは、専門化した業務形態で好き勝手——もとい、各自が適宜処理していた。
要するに……処理するのに億劫な雑用が、溜まりに溜まっているのだ。
それは、チーム全体を見渡しながら指揮を執り、上からもぎ取ってきた必要経費を、費用対効果を最大限に考慮しながら配分する役目である智史も同じだった。
——いや、チーム内で最も多忙な彼が一番、溜まりに溜まっているかもしれない。
「……だがな、青山。今、人事が登録している派遣社員のデータを見ているが、君の望む適当な人材が見当たらないんだ」
課長の魚住は手元のタブレットの画面を、細長い指でスワイプさせながら唸った。
まだ三〇代半ばでMD課を束ねる彼は、前髪をヘアワックスで後ろへ流した黒髪に今流行りの塩顔で、いかにも仕事のできそうなクールでシャープな雰囲気だった。
「では、見せてください」
智史はすっ、と魚住の方へ手を伸ばした。
「僕が望む人材がどうかは……僕にしか、わからないので」
「だ、だめだっ」
魚住はあわてて拒んだ。
「人事部のデータを照会するには、課長以上の管理者パスワードがないと」
「もう開いて照会してるんだから、パスワードなんて必要ないじゃないですか」
智史はにべもなく言った。彼の役職はMD課のチームリーダーで、古くからある企業でいうところの「課長代理」や「課長補佐」だった。
「そういうことを言ってるんじゃない。わが社の就業規則および服務規程に抵触するということだ」
魚住は、知らず識らずのうちに、タブレットを抱きかかえるようにしていた。
「……いいんですか?」
智史は魚住を鋭く見据えた。
「『あのこと』を……美咲さんに言っても?」
1
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる