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Last Chapter
旅立 ③
しおりを挟む「たっくん、あたしのこと世間に『公表』するねんやったら、そしたら……もう、おねえちゃんにたっくんのこと、話してええのん?」
栞は、神宮寺からとっくにスマホを取り返していた。
なのに、姉の稍に連絡を取ることに未だ二の足を踏んでいたのだ。
きっと連絡すれば、稍は栞の兄である智史との「結婚」を包み隠さず話してくれるであろう。
けれども、自分の方は神宮寺との「結婚」を包み隠さず話せないのだ。
「あぁ、もちろんだ。話してくれ。考えてみれば、口止めさえきちっとしてくれるのなら、身内には隠しておくこともなかったんだよな。栞にとっては母親代わりのたった一人の姉さんなのに……悪かった」
神宮寺は栞の頭を、ぽんぽんとした。
彼にも兄がいるが、男兄弟なんて大人になると仕事が忙しいこともあって、この前会ったのはいつだっけ?という具合になりがちだが、その感覚で考えていた。
「でも、もう……口止めもする必要もないから。おれのことをちゃんと『紹介』してくれ。東京に帰ったら、栞の姉さんと『兄さん』にも挨拶に行かないとな。あぁ……実家にも栞を連れて行かなきゃな。そういえば、うちのおふくろ、女の子がほしかったもんだから、兄貴が奥さんになる子を初めて連れてきたときは、すっげぇ興奮してたいへんだったんだぜ」
神宮寺の大きな手のひらが、栞のポニーテールに結った髪を愛おしげに撫でたあと、チークを施さなくてもいつもほんわりと赤みのある頬に降りてくる。
神宮寺が自然と屈託のない笑顔になっていた。その目尻がみるみるうちに下がっていく。
彼のアーモンドの瞳を見上げる栞の顔も、みるみるうちに笑顔が広がっていく。
神宮寺の顔が、ゆっくりと栞に近づいてきた。
そして、もう少しで、互いのくちびるが触れ合う、と思ったそのとき——
「たっくんっ、『善は急げ』やから、今からおねえちゃんに連絡して、結婚の報告するわっ!」
「はあぁっ⁉︎ なんで『今』なんだよっ⁉︎」
これからこの「流れ」で栞を二階の寝室に引っ張り込もうとしていた神宮寺が、驚きのあまり声を張り上げる。
「えっ、だって……おねえちゃんに言うてもええって言わはったやん?」
栞がきょとんとした顔で、こてんと首を傾げる。「ど天然記念物」が炸裂だ。
「ほな、あたしがたっくんと結婚したことをおねえちゃんにL◯NEで『報告』してる間、たっくんは家計のためにがんばってお仕事して。東京へ戻るまでに、できるだけたくさん書かんとあかんえ」
栞はそそくさと神宮寺に背を向けた。
今日は金曜日なので、きっと明日は稍の派遣先の会社が休みのはずだ。だから、積もる話があり過ぎて、少々長くなっても大丈夫だろう。ツイている。
背後で歯軋りする神宮寺を尻目に、栞はイ◯アの真っ赤なエプロンのポケットから、スマホを取り出した。
それから、タップを繰り返したあと、スマホを耳に当てる。
スマホからは姉を呼び出す、弾むような軽快なリズムの音が聞こえてきた——
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