契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
84 / 88
Last Chapter

旅立 ③

しおりを挟む

「たっくん、あたしのこと世間に『公表』するねんやったら、そしたら……もう、おねえちゃんにたっくんのこと、話してええのん?」

   栞は、神宮寺からとっくにスマホを取り返していた。
   なのに、姉のややに連絡を取ることに未だ二の足を踏んでいたのだ。

   きっと連絡すれば、稍は栞の兄である智史との「結婚」を包み隠さず話してくれるであろう。
   けれども、自分の方は神宮寺との「結婚」を包み隠さず話せないのだ。

「あぁ、もちろんだ。話してくれ。考えてみれば、口止めさえきちっとしてくれるのなら、身内には隠しておくこともなかったんだよな。栞にとっては母親代わりのたった一人の姉さんなのに……悪かった」

   神宮寺は栞の頭を、ぽんぽんとした。
   彼にも兄がいるが、男兄弟なんて大人になると仕事が忙しいこともあって、この前会ったのはいつだっけ?という具合になりがちだが、その感覚で考えていた。

「でも、もう……口止めもする必要もないから。おれのことをちゃんと『紹介』してくれ。東京に帰ったら、栞の姉さんと『兄さん』にも挨拶に行かないとな。あぁ……実家うちにも栞を連れて行かなきゃな。そういえば、うちのおふくろ、女の子がほしかったもんだから、兄貴が奥さんになる子を初めて連れてきたときは、すっげぇ興奮してたいへんだったんだぜ」

   神宮寺の大きな手のひらが、栞のポニーテールに結った髪を愛おしげに撫でたあと、チークを施さなくてもいつもほんわりと赤みのある頬に降りてくる。

   神宮寺が自然と屈託のない笑顔になっていた。その目尻がみるみるうちに下がっていく。
   彼のアーモンドの瞳を見上げる栞の顔も、みるみるうちに笑顔が広がっていく。

   神宮寺の顔が、ゆっくりと栞に近づいてきた。

   そして、もう少しで、互いのくちびるが触れ合う、と思ったそのとき——

「たっくんっ、『善は急げ』やから、今からおねえちゃんに連絡して、結婚の報告するわっ!」

「はあぁっ⁉︎ なんで『今』なんだよっ⁉︎」

   これからこの「流れ」で栞を二階うえの寝室に引っ張り込もうとしていた神宮寺が、驚きのあまり声を張り上げる。

「えっ、だって……おねえちゃんに言うてもええって言わはったやん?」

   栞がきょとんとした顔で、こてんと首をかしげる。「天然記念物」が炸裂だ。

「ほな、あたしがたっくんと結婚したことをおねえちゃんにL◯NEで『報告』してる間、たっくんは家計のためにがんばってお仕事して。東京へ戻るまでに、できるだけたくさんぎょうさん書かんとあかんえ」

   栞はそそくさと神宮寺に背を向けた。
   今日は金曜日なので、きっと明日は稍の派遣先の会社が休みのはずだ。だから、積もる話があり過ぎて、少々長くなっても大丈夫だろう。ツイている。

   背後で歯軋はぎしりする神宮寺を尻目に、栞はイ◯アの真っ赤なエプロンのポケットから、スマホを取り出した。
   それから、タップを繰り返したあと、スマホを耳に当てる。

   スマホからは姉を呼び出す、弾むような軽快なリズムの音が聞こえてきた——

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...