82 / 88
Last Chapter
旅立 ①
しおりを挟む「……えっ、町下先生が?」
L◯NE通話で話す神宮寺の声が裏返った。
「まぁ……仕方ないよな……最初からそういう『約束』だったからな……あぁ、わかった……それは、なんとかするさ……じゃあ、そういうことで……あとは、よろしく」
だが、すぐに平静を取り戻した神宮寺はそう告げると、スマホのディスプレイをを軽くタップして通話を終えた。
しのぶとの通話だった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
その日の夕食をいつものように二人きりでダイニングで取ったあと、リビングのL字型のソファに移った神宮寺に、栞が食後のカフェオレを渡したときだった。
神宮寺のスマホがヴヴヴッと鳴ったのだ。
「……佐久間か?」
通話に出た神宮寺の声を聞いて、栞は夕食の片付けをするために、そそくさとキッチンへ向かおうとした。
しかし、いきなり神宮寺から腕を引っ張られたかと思うと、次の瞬間には彼の脚の間にすっぽりと収まるようにソファに座っていた。
その後は、スマホを持つ反対の手で栞を背後から抱きかかえるようにして、神宮寺はしのぶと通話した。
「わざわざ席を外さなくてもいい。栞が気を遣う必要なんてなにもないんだから、遠慮せずにここにいろ」
ローテーブルにスマホを置いた神宮寺は、両腕で栞を抱きしめた。俯く彼女の顳顬に軽く、ちゅ、とキスを落とす。
「今の佐久間からの話はな、町下先生が今度、文藝夏冬で新作を書くことになったから、ここに篭りたいと言ってるっていう知らせだ」
このログハウスの持ち主は作家の町下 秋樹で、彼の姪であるしのぶが「叔父さんが執筆するために篭りたくなったら、神宮寺先生にはすぐに東京へ帰ってもらう」という約束で、半ば強引に借り受けていたのだ。
「たっくん……もう『新作』を書き終えはったん?」
栞は神宮寺から、GW中は昼夜を問わず二階の寝室で貪り尽くされ、GWが明けたのちも相変わらず虎視眈々と、好きあらば栞を引っ張り込もうと狙われていたのだ。
——いつの間に書き上げはってんやろ?
不思議で仕方がなかった。
「そんなの、まだに決まってるだろ?」
神宮寺はさも当然のように答えた。
「……東京へ帰るぞ、栞。そして、すでに栞がおれの妻であることを、世間に公表するからな」
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる