契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

佐倉 蘭

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Last Chapter

訪問 ⑧

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   しかし、その頭の中では、今腕の中でばたばたともがいている栞に、一刻も早く彼らを追い出したあとで、どのように「釈明」すれば納得してくれるだろうか、と考えていた。

——ちっ、今日子のヤツ、余計なこと言いやがって……

   神宮寺は舌打ちを百連発したいくらいだった。

   突然「たっくんの過去」を聞かされた栞は傷つき、どうしていいのかわからないに違いない。
   なんとなく静かなのも、そのためだろう。

   そんな栞に、「言葉」でいくら「今は栞だけが好きなんだ」「そもそも、今までに栞以外のオンナにこんな気持ちになったことはない」と言ったところで、信じてもらえるとは到底思えなかった。

   なので——やはり「最終的」には言葉に頼らず「態度」で示す以外の方法はなさそうだ、という結論に達した。

   しかもそれは、神宮寺自身にとってもやぶさかではない方法だ。よって、一石二鳥の「名案」と思われた。

——栞は今夜、寝かせてやれないかもしれないけどなっ。

   神宮寺の心は自然と浮き立った。


「ねぇ……彼女から『たっくん』なんて呼ばれてるけど……あなた、ほんとに……あの拓真?」

   決意が固まったことに比例して、栞を抱きしめる腕に力が篭る神宮寺を、今日子は信じられないものを見る目をして見つめた。

「もしかして、この山奥に不時着した宇宙人によって、魂を乗っ取られて成り代わられたんじゃ……」

   しのぶが言ったのと同じことを言っている。

「うるさい。おれたちは新婚だからな。それに、なによりもおれが栞に逃げられたくねえからこうして閉じ込めてるんだよ」

   さらにいっそう、抱きしめる腕にきゅ、と力を込めた。

   中で栞が「ぐぇっ」と道路の上に踏みつけられた梅雨時のカエルのような声をあげた。
   『傷つき、どうしていいのかわからないに違いない』人間があげた声とは、とても思えなかった。

   そもそも、先刻さっきまで『なんとなく静か』だったのは、今日子がだれだかわからず、でも尋ねるのは失礼かな、と思いつつ「尋ねるタイミング」を見計らっていたためだ。
   そのことばかりに気がいって、実はあまり話の内容を聞いてなかった。

   そして、たった今『なんとなく静か』なのは、余計なことをすると神宮寺から人前で辱められるからだった。


「ふうーん……拓真ですら相手に逃げられたくない、と思ったら、そういう『態度』になるのね……」

   急に、今日子の声のトーンが陰った。

「おまえだって今度、なんとかっていう俳優と結婚するんじゃねぇのかよ?池原が言ってたぞ」

   神宮寺が訝しげに今日子を見た。

「先生、僕は『なんとか』なんて言ってませんよ。風間 優雅さんですよ」

   女子に人気の雑誌で、毎年「抱かれたい男」の第一位ナンバーワンに輝いている超人気イケメン俳優と、結婚することになった今日子だって、幸せの絶頂のはずだった。

「あの『風間 優雅』と結婚できるなんて、って、あなたはうらやましいと思ってるかもしれないけど……」

   今日子は、なんとか神宮寺の腕から脱出した栞を見て言った。

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