73 / 88
Last Chapter
訪問 ⑤
しおりを挟む「……憶測だけでいいかげんなことを言うのは、やめてくれないか」
神宮寺は、今日子を鋭く見据えて告げた。
「あら、だって彼女が拓真の『初めての女』ってことは事実でしょ?わたしはつき合ってるときに、あなたのその口から直接聞いたのよ?それも……ベッドの中でね」
今日子は、ふふん、と笑いながら、黒のワンピから伸びたすらりとした脚を組み直した。
「しかも……初めての賞をもらった『ご褒美』だったってね?」
ということは、神宮寺が日本ファンタジー小説新人賞を獲った、まだ高校生のときだ。
「へぇ……やっぱり、二人の間には『そういうこと』があったんだ」
別にこれをエサに神宮寺に対してなにかするということは考えないが、編集者という職業柄「事情通」でいたい池原は、いいネタをもらったと思いほくそ笑んだ。
——こんな山奥くんだりまで、二度も来た甲斐があったってもんだ。
まだ極秘だが、近々「女優・八坂 今日子」が結婚するにあたって、古湖社から「語り下ろし」の本が出版されることになり、池原が担当することになった。
暴露本とは質を異にするが、曲がりなりにもこれまでの半生を世間に曝す以上、かつて世間を騒がせた「神宮寺との恋」に言及しないわけにいかない。
なので、池原は「第五章/年下のイケメン人気作家『J』との哀しい恋」をより充実させるべく、今日子に神宮寺の「近況」を「情報提供」した。
すると、今日子が「拓真に会いたい」と言いだしたのだ。『会わせてくれなければ、この企画はなかったことに』とまで言われたら、池原も連れてこざるを得なくなった。
だから、こんな山奥のぽつんと一軒家にまた来る羽目になったのだ。
「十代の頃の、たった一回きりのことだ。あれ以来、彼女とはなにもない」
神宮寺はきっぱりと言い切った。その視線の先には今日子ではなく、栞がいた。
栞は、今日子と池原の前にフッチェン◯イターのバロネスの白いカップを置くところだった。
「栞……おいで」
神宮寺は自分の隣に栞を促した。
栞はそこへ座ると、今度はお揃いのフラ◯フランのイニシャルマグを自分たちの前に置いた。
そのとき、池原が目敏く二人の左手薬指に気づいた。
「えっ、それ……結婚指輪じゃないですかっ⁉︎やっ、やっぱり——栞さんは『京都妻』だったんじゃないですかっ⁉︎ この前は『違う』って言ってたのにっ!」
——やっぱり、その「効果」は絶大だったな。
今度は神宮寺がほくそ笑む番だった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる