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Last Chapter
訪問 ④
しおりを挟む「ふうーん、すっごい山奥だけど、感じのいいログハウスねぇ。ここって、拓真の別荘?」
オーバルのサングラスを取った今日子が、リビングの内装を見渡しながら訊く。
豊かな胸の膨らみとか細い腰の曲線に忠実に従って、張りつくように沿う黒のハイネックのワンピースは、カール・ラガーフ◯ルドだ。
膝上丈の裾からまっすぐに伸びる白い脛も、艶かしくて扇情的に見える。
「神崎——いや、佐久間の伝手で借りてるだけだ」
神宮寺が答えると、
「町下先生の別荘なんですよ」
と、池原が口を挟んだ。
「えっ、町下先生って……あの町下 秋樹?」
サングラスを外して現れた今日子の瞳が見開かれる。
茶川賞と植木賞をW受賞した人気作家だが、大の人嫌いで表舞台に登場することがほとんどないため「幻の作家」と呼ばれている。
「文藝夏冬の佐久間女史は、町下先生の姪御さんなんですよ」
町下 秋樹はペンネームで、本名は神崎 裕二といい、しのぶの父の弟である。
実はその「伝手」を使って、町下が神宮寺のデビュー作の単行本の帯に推薦文を寄せてくれた、という経緯があった。
神宮寺を売り出すために、確かにしのぶは身内を利用して「仕掛けた」。
けれども、編集者の間で偏屈で気難しいと言われる町下を最終的に動かしたのは、今にも芽吹きそうな瞬間を待つ「高校生・本田 拓真の文才」だった。
「へぇ……そうだったの」
今日子は優雅な所作でL字型ソファの一角に腰を下ろし(勧められもしないのに上座だった)、手にしていたシ◯ネルの黒のココハンドルを隣に置いた。
かったるそうな様子で、仕方なく神宮寺が反対側に座る。
すると池原が、神宮寺と今日子の中間地点にあたるL字の角の付近に腰を落ち着けた。
そのとき、栞が淹れたカフェオレをトレイに乗せてやってきた。
今日子はちらり、と栞を横目で見たあと、すぐに視線を戻した。
「ねぇ、拓真……今でも神崎さんのことが忘れられないの?」
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