契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

佐倉 蘭

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Last Chapter

訪問 ③

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   栞はするりと神宮寺から抜け出し、インターフォンの受信機に駆け寄り、ボタンを押した。

『……先生、古湖社の池原です』

   栞に逃げられ、それでなくても史上最悪の殺人鬼級に、なにをしでかすかわからない形相になっていた神宮寺は、
「放っておけ!絶対に無視しろ」
   素っ気なく栞に指図した。

   しかし、栞にとっては背に腹はかえられぬのだ。なので、「はーい」と元気よく返事した。

『あ、栞さんですね。開けてもらっていいですか?』

「池原っ、なにが『栞さんですね?』だっ!気安く名前で呼ぶんじゃねえっ!八木——じゃなかった、本田って呼べっ!」

   神宮寺が、モニターに映る池原に向かって怒鳴った。

『あ、先生、いらっしゃったんですね。ちょうどよかった!実は先生に……うわっ、ちょっと待ってくださいよぉっ⁉︎』

   いきなり、がさがさっと雑音が入ってモニターには池原とは違う人物が映った。

   「その人」はつばの広いキャペリンというデザインの白い帽子ハットを被り、大きなオーバルのサングラスを掛けていた。

「うわぁ、なんだか女優さんみたいなひとですねぇ?」
   栞が何気に「その人」の感想を述べた。

「『みたい』じゃない。……女優だ」
   神宮寺が地の底からか?と思うほど低い声で答えた。


『……ひさしぶりね、拓真』

   「女優」の声が聞こえてきた。

『八坂さんっ、急に出ないでくださいよっ!』
   池原のあわてた声が飛び込んでくる。

「……何の用だ……今日子」

   神宮寺がモニターに向かって問いかけた。

『あら、ご挨拶ねぇ。こんな山奥まで、わざわざ来てあげたっていうのに。……ねぇ、ここってほんとに京都なの?』

「限りなく奈良です」
   栞は親切心で教えてあげた。

「栞、黙ってろ」
   だが、すぐさま神宮寺に制される。

『とにかく、早く家の中に入れてくれない?』

   モニターの向こうで「女優」——八坂 今日子は婉然と微笑んだ。


   かつての神宮寺が恋に堕ちた……あの笑顔だった。

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