契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

佐倉 蘭

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Last Chapter

訪問 ②

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「ち、違いますっ!」

   栞は目の前で左手を振った。つい先刻さっきはめてもらったピンクゴールドが、きらきらっと光った。

「せっかく作成してもらったので、もったいないから『記念』に取っておこうと思って。もちろん、サインはしませんよ?」

   とたんに、神宮寺がほぉーっと脱力した。互いの署名サインがなければ、それこそただの「紙切れ」だ。

「神宮寺先生、ずいぶんと振り回されちゃってますね。——この『天然小悪魔』に」

「うるさい。どうせ、こいつは『天然記念物』だからな、かん……」
   神宮寺は「神崎」と言いかけて、
「……佐久間」
と、言い直した。

「……は?」
   しのぶが目を見開く。

   結婚しても旧姓で仕事をする女性が多くなってきた中、しのぶが「改姓」することを選んで五年近くなるが、神宮寺だけはかたくなに「神崎」と呼んでいた。

「もし、栞が未だに『八木』って呼ばれたりしたら、おれはいい気はしないからな」

   しのぶは、ふっ、と笑った。

「そう……やっと、オトナになったのね」

   そして、五年ぶりに——けれども、たぶんもう二度と呼ぶことはないその名で呼んだ。

「……『拓真くん』」


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   それから数日後、リビングのL字型ソファで神宮寺から抱きすくめられていた栞は、必死で「抵抗」していた。

「たっくん、家計のために仕事してっ!それでなくても、あんな高そうな婚約指輪エンゲージリング注文したのにっ⁉︎」

   神宮寺は先刻さっきから、ちゅ、ちゅ、と栞の顔中にバードキスをしている。

「だって、あれ、百万円はしそうなでっかいダイヤついてるやんかっ⁉︎」

   実際のところは「桁違い」の一千万円だ。

「じゃあ、栞が二階うえの仕事場まで連れて行ってくれよ?」

   そう言って、神宮寺が笑うと垂れるアーモンドの形の瞳で、栞の目を覗き込む。

——それは、絶対にあかん!「混ぜるな、危険!」以上に生命いのちの危機やっ!

   仕事場にしている書斎の奥は、寝室なのだ。すでに、今までに何度となく引っ張り込まれて足腰立たなくさせられているのだ。

   しかし——いかんせん栞の力は弱い。

「ほら……栞、立ちな」

   神宮寺はもう引っ張り込む気力を最大限チャージしているらしく、栞を抱きかかえるようにして、ひょいと立ち上がらせてしまった。

「栞が二階まで一緒に来てくれたらさ、ちゃーんと仕事するよ」
   耳元で、神宮寺が甘~い声でささやく。

——ウソや、絶対にウソやっ!信じたら、あかんえっ!

   栞の「野生のカン」が「理性」とタッグを組んでそう告げる。

「ほらっ、二階うえへ行くぞ」

   栞は神宮寺から包み込むように肩を回され……

——最早もはや、これまでかっ⁉︎

   無念の涙を流しかけたそのとき……

♪ピンポーン とインターフォンが鳴った。


——助かった!もしかして、しのぶさんがまた来はったんかも……

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