契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

佐倉 蘭

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Chapter 5

対峙 ⑨

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「えーっと、そういうのもまぁ……『天の采配』って申しますか……」
   今さらながら、栞はあわてて言葉を選び始めた。

「ええわよ。むしろ、今になってそんな取ってつけたようなこと言われたら……余計に腹立つわ」

   登茂子はそう言うと、観念したかのように、ふーっと息を吐いた。

「そうや、あんたの言うとおりや。しかも——わたしが仕組んでやったことや。そうでもしいひんかったら、洋史はいつまで経っても結婚なんかしやへんかったやろうからな」

——うっわー、ただのデキ婚やなくて、まさかの自ら仕込んだ「やらせデキ婚」やったかー。

   でも……ということは——

「青山さんはそれほど、そいつと結婚したいって思ってたってことだよな?」

   神宮寺がぼそり、とつぶやいた。

「だが、男の立場からすると、いくら惚れた女であろうが、そんなことするヤツは腹立つ前にすっげぇえぇよ。それに、なんだか裏切られた気持ちになるな。だから正直、おれだったら、その女のことはもう信頼できねぇよ。子どものためには仕方がないとはいえ——そんな女との婚姻届なんか出したかねえよ」

   栞はそれを聞いて、びくり、と震えおののいた。
   神宮寺たっくんから愛想を尽かされないためにも「やらせデキ婚」だけは絶対にするまい、と固く決意し、忘れないように心の中のノートに書きつけた。

   しかし……そんな経緯いきさつはカケラもないままに、すでに婚姻届は受理されているので、そのような心配はまったく無意味なのだが。


   そして、栞は登茂子の「お言葉」に甘えることにして、心にもない「取ってつけたようなこと」を言うのをきっぱりやめた。

「えっと、あの……あたし、自分が婚姻届を出すことになって、つくづく思ったんですけど……」

   栞は登茂子を見る。今の彼女は怒りもせず、かといって笑いもしていない、ニュートラルな表情だった。

「あたしにはそれが……ただの紙切れにしか見えへんのです」

   しかし、とたんに登茂子だけでなく神宮寺までもがぎょっとした顔になる。

「あ、『紙切れ』は言い過ぎやったですね。……言い直します」

   栞は、ふふっと朗らかに笑った。

「あたしには、自分の書いた婚姻届が——ただの『契約書』にしか思えないんです」


   栞のその言葉を聞いて、だれよりも顔を歪ませたのは、登茂子ではなく——神宮寺だった。

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