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Chapter 5
対峙 ①
しおりを挟む栞が淹れたてのカフェオレを持ってきた。
フッチェン◯イターのバロネスの白いカップを登茂子の前に置いたあと、お揃いのフ◯ンフランのイニシャルカップを神宮寺と自分の前に置き、ソファに腰を下ろした。
「栞が淹れたカフェオレ、砂糖を入れなくても不思議と甘いんだ」
神宮寺が「T」のイニシャルカップのカフェオレをごくりと飲む。
登茂子もバロネスからひとくち飲んだ。
「本当にそうやわ、栞さん。……いえ、栞ちゃん」
突然、彼女が関西弁のアクセントになっていた。
思わず、神宮寺が登茂子を見る。てっきり、彼女が東京の人間だとばかり思っていたからだ。
「この味……あんたのお父さんが淹れたカフェオレと、同し味するわ」
登茂子からは、それまでの和やかさがすっかり消え失せていた。
「姉から教わったカフェオレです。たぶん、姉は『母の味』を再現しただけやと思いますけど……」
対する栞の顔も、知らず識らずのうちに強張っている。
そして、神宮寺だけワケがわからず、一人訝しげな顔をするしかなかった。
「ねぇ、栞ちゃん……知ってる?」
登茂子は空虚な笑みを浮かべて訊いた。
「あんたのお姉さん……稍ちゃんと、うちの息子の智史が……」
栞はきょとんとした顔で登茂子を見返した。
「……結婚したい、って言うてること」
——おねえちゃんが、あたしの「お兄さん」と結婚⁉︎
思いがけない話に、栞の全身が硬直した。
確か……姉はこの六月に挙式予定だったにもかかわらず、婚約者が同じ会社の後輩と浮気したため婚約破棄したのではなかったのか?
その元婚約者は野田 康平とかいう名前だったはずだ。
しかし、それは四月半ば時点のことだ。
そして先週のGWの終わり、神戸で家族と会う約束だったのに(神宮寺に「妨害」されて)急遽行けなくなった栞は、姉のスマホへ通話をした。
——そうやっ、あのとき、おねえちゃんが「お兄さん」に代わらはったんやったわっ!
代わった瞬間、いきなり神宮寺からスマホをを奪われてしまい、中途半端な形になってしまったのだった。
——あのとき、もしかしたら、おねえちゃんは「お兄さん」と結婚することを報告するために、神戸に帰ってきたはったんかもしれへん。
だが、神宮寺から、
『たとえ「兄」とはいえ、おれの目を逃れて男と通話するなんて油断も隙もない。それに、マスコミが調べて突然かけてきやがることもあるから』
と言われ、未だにスマホを「没収」されているので、稍に連絡できずにいた。
栞自身、たった一人の姉に神宮寺とのことを正直に話せずにはぐらかさねばならない「後ろめたさ」もあって、これ幸いとそのままにしてしまっている、ということもある。
——せやけど、やっぱし早急にたっくんからスマホを奪還して、おねえちゃんと話をしやなあかんわっ!
「このGWの初めにね、智史と稍ちゃんが連れ立って、これ見よがしに婚姻届をわたしに見せつけに来たのよ」
登茂子は苦虫を噛み潰した顔になる。
「我が息子ながら、子どものときから無表情でなに考えてるのかさっぱりわからへんかった智史が、ずーっと稍ちゃんとがっちり『恋人つなぎ』してたわ。……まぁ、小学生やったあの頃も、二人はいつもべったりくっついてたけどね」
——えっ、あのなんでも淡々とやり過ごすクールなおねえちゃんが、お姑さんになるかもしれへん人の前で堂々と『恋人つなぎ』⁉︎
栞には到底、信じられなかった。
神宮寺の方に至っては、今まで登茂子から家族についての話を聞いたことがなく、息子がいることすら知らなかった。
彼女から「夫」の存在をまったく感じられなかったから、バリキャリの独身であろうと思っていたくらいだ。
——さらに、その息子が栞と父親が同じ「兄」で、しかも栞と母親の同じ「姉」と結婚するだと?二人はまったく血がつながってないから婚姻上は問題ないとはいえ、偶然にしては世の中狭すぎだろ?
神宮寺も到底、信じられなかった。
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